国を変える、という言葉はいつも東京から語られてきました。
けれども、私たちが日々水を飲み、子どもを学校に通わせ、雪を片付ける生活の現場は、ほぼすべて市区町村の手の中にあります。
北海道ニセコ町と長野県白馬村。雪山を愛する二人の対談から見えてきた、これからの国創りの設計図をお届けします。
対談はある夜、フィリピン・エルニドの宿と長野県白馬村をオンラインでつないで始まりました。一方は海外拠点を探しに旅する前原こうしょく、もう一方は山岳写真家として白馬に移住したスズキゴウさん。話題はやがて、二人がそれぞれ暮らす自治体の財政、議会、そしてこれからの日本へと広がっていきました。
語られたことは、特定の地域だけの話ではありません。国会で成立する法律のうち、政府提出法案がほぼ98%まで通過していくこの国で、私たちはどこを起点に変化を起こせるのか。問いの答えは、二人の暮らす地方自治体のなかにありました。
「国は変わりません。なので、地方の皆さんに聞いてほしいのです。日本が助かる方法は二つあって、そのうちの一つは、地方でみんなが協力して動くということ。
──地方議員は全国に約三万人います。」
本ページでは、対談で語られた問題意識を、公的データと制度設計の視点から再構成しました。怒りで耕すのではなく、観察と構造で耕す。それが国創プロジェクトの一貫した姿勢です。
日本の地方議員はおよそ三万人。総務省の最新の集計で31,555人(2024年12月末)。そのうち町村議会の議員が10,559人、市区議会が約2万人、都道府県議会が約2,600人です。町村は全国に926あり、そこに今も日本の隅々の暮らしがあります。
最も深刻な数字は、無投票当選率です。2023年の第20回統一地方選挙で、町村議選の30.3%が無投票でした。町村長選にいたっては56.0%。つまり半数以上の自治体で、首長を選ぶ選挙そのものが成立していません。
これは「住民が興味を失った」のではなく、「立候補できる人がいなくなった」という、なり手不足の問題です。町村議員の平均月額報酬は約21万9,761円。人口五千人未満の小規模町村では平均約18万8,000円まで下がります。現役世代が家計を支えながら議員専業として暮らすことは、現実的にほぼ不可能なのです。
「議員報酬が16万5千円ぐらい。これだとアルバイトの方が稼げてしまうので、若手はなれない。結果として、年金を生活原資にできる退職世代に議員が集中する。」
──この声は、町村議員の報酬実態とほぼ一致します。報酬の低さは「清廉さ」の表れではなく、世代構成の偏りを構造的に生み出している原因の一つです。
総務省の研究会は、ふたつの選択肢を示しています。少数の専業議員に生活給水準の報酬を払う「集中専門型」と、多数の非専業議員が夜間や休日に議会を運営する「多数参画型」。どちらかが正解という話ではなく、それぞれの自治体が住民構成と地域経済の実情に応じて議会の設計を選び直す時代に入った、ということです。
対談者が暮らす(あるいは関わってきた)二つの自治体は、観光地としての成功と財政運営の難しさを同時に抱えています。具体的な数字を並べると、見えてくる構造があります。
| 人口 | 約4,498人(2025年1月時点) |
|---|---|
| 令和7年度 一般会計予算 | 104億7,000万円(過去最大) |
| 令和7年度 全会計予算 | 122億8,010万円(前年度比+56.5%) |
| 町税(自主財源) | 約10〜11億円 |
| 財政調整基金 残高 | 約4億8,752万円(令和5年度末) |
| 町長 | 田中健人氏(34歳・2025年9月就任、道内最年少) |
人口五千人弱の町で、年間予算が百二十億円を超える。差額は地方交付税、国庫支出金、地方債、そして基金繰入で埋められます。膨張の主因は、消防庁舎再整備、ニセコ高校寄宿舎整備、新団地整備といった大型ハード事業の集中です。
| 白馬村 人口 | 約9,861人(2026年2月) |
|---|---|
| 白馬村 外国人住民比率 | 13.5%(約1,239人・長野県内最高水準) |
| 白馬村 令和7年度予算 | 70億9,000万円(前年比+5.7%) |
| 小谷村 人口 | 約2,811人(2025年1月) |
| 小谷村 令和7年度予算 | 44億8,000万円(ほぼ前年並み) |
白馬村は外国人住民比率13.5%という、長野県内でも極めて高い国際化を達成しています。観光客の51%がオーストラリアからの来訪者で、リピート率が6回を超える層が54%。コロナ前を上回る延べ130万人(2024〜25シーズン)を迎えています。これは中山間地における国際化の成功事例として、全国の参照点になりうる規模です。
対談で語られた「札幌市は予算書に『あと五年で貯金がなくなる』と書いている」という話は、趣旨としてほぼ正確です。札幌市が2026年に公表した「今後10年間の財政推計」では、財政調整基金など主要三基金が五年後に枯渇する恐れがあると公式に明記。収支不足は令和8年度210億円、十年後には591億円に拡大すると見込まれています。
人口百九十万人の政令指定都市でさえ、こうした構造的警告を出さざるをえない時代です。ニセコや白馬のような小さな自治体だけの話ではありません。
対談で繰り返し語られたのは、「国は変わらない」という実感でした。これを感情ではなくデータで確認すると、いくつかの構造が見えてきます。
| 第217回常会(2025年) | 閣法成立率 約98.3% / 議員立法 約22% |
|---|---|
| 第213回常会(2024年) | 閣法成立率 約98.4% / 議員立法 約17.8% |
| 第211回常会(2023年) | 閣法成立率 約96.7% / 議員立法 約19.4% |
| 第208回常会(2022年) | 閣法成立率 100% / 議員立法 約17.7% |
内閣提出法案(閣法)は近年ほぼ毎年95%以上の成立率です。一方、議員が独自に提出する議員立法の成立率は15〜25%にとどまります。議院内閣制で与党が多数を占める日本では、与党の事前審査(自民党であれば政務調査会・総務会)で実質的な意思決定が終わっており、国会本会議は儀礼的な確認の場になりやすい構造があります。
対談では「閣議決定は非公開で議事録もない」という表現がありましたが、2014年3月28日の閣議決定により、同年4月1日以降の閣議・閣僚懇談会の議事録は作成され、おおむね三週間後に首相官邸ホームページで公表されています。憲政史上初の取り組みで、三十年後をめどに国立公文書館へ移管予定です。議論の場が原則非公開で全会一致原則という点は事実ですが、「議事録もない」は誤りです。
日本の地方自治制度は、しばしば「大統領制的」と表現されます。首長と議会議員がともに住民の直接公選で選ばれる二元代表制をとるためです。ただし、議会が首長への不信任議決権を持ち、首長は議会を解散できるため、純粋な大統領制ではなく「修正型大統領制」と呼ぶのが学術的には正確です。
首長の権限は、実は国の首相よりも強力です。予算編成・提出権の独占、専決処分権、規則制定権、人事権、再議権。議員には予算提出権がなく、議会は首長案を可決・修正・否決するしかありません。
この権限の強さが、無能な首長のもとでは独走を生み、有能で開かれた首長のもとでは構造改革のテコになります。設計図2027の本質は、後者を増やす運動だと考えています。
歴史的アナロジーを政策論に持ち込む際は、史実の正確さが説得力を支えます。薩長同盟は1866年3月7日、京都の小松帯刀邸で締結された六箇条の盟約です。仲介は坂本龍馬と中岡慎太郎。八月十八日の政変と禁門の変で敵対していた両藩を、武器調達の周旋で結びつけたものでした。
その後の流れは、第二次長州征伐(1866)、大政奉還(1867年10月14日)、王政復古の大号令(同年12月9日)、戊辰戦争(1868〜69)、版籍奉還(1869)、廃藩置県(1871)と続きます。明治維新は武力倒幕単独の物語ではなく、公議政体派と武力倒幕派の緊張のなかで進んだ複合的な変革でした。
「明治維新のときも、薩摩藩と長州藩、つまり藩は自治体ですよ。白馬村とニセコ町が、合併ではなく話し合って、『国のやっていることがおかしいじゃないか』と自治体の側から声を出す。それを国民に知らせる。これが、いちばん変えられる経路なのです。」
2027年4月、第21回統一地方選挙が予定されています。直前の2023年第20回選挙では、道府県議選41.9%、市議選44.26%、町村議選55.49%、いずれも投票率が過去最低を更新しました。「投票率の底」を「同盟の底」と捉え直し、自治体間で政策・候補者育成・選挙ノウハウを共有財として持ち寄ったとき、国に陳情するのではなく国に提案する自治体群が現れます。
これは反中央ではありません。新しい中央地方関係のプロトタイプとして理解されるべき動きです。
自治体予算書は、原則として公開されています。けれども、人口五千人の町でも百ページを超える専門文書であり、財政の基礎知識と時間がなければ読み解くことはできません。結果として、「公開されているが事実上アクセスできない」という現代的な情報非対称性が生まれています。
ここに、生成AIの活用余地があります。
これらは技術的にすでに可能で、人口数千人の自治体でも年間数十万円規模で実装できる水準まで来ています。
議員数を減らすか増やすかという議論よりも先に、議員の仕事を再設計する必要があります。AIが定型分析を担えば、議員は「分析を読む人」から「分析に基づき判断する人」へ役割を移せます。これは議員の負担軽減と意思決定の質向上を同時に達成する経路です。
ニセコ町、白馬村、小谷村のような小規模自治体こそ、実装スピードと住民との距離の近さを活かして、市民参加型予算審議のパイロット地域になりえます。設計図2027は、選挙だけでなく、選挙後の議会運営そのものの設計を含むべきだと考えます。
対談の後半では、生活実感としての変化が語られました。カルビーのポテトチップス袋が白黒になるという話、そして外国人住民が増えるなかでの治安への懸念です。どちらも事実関係を冷静に分解する必要があります。
カルビーは2026年5月12日、ポテトチップス(うすしお味・コンソメパンチ等)、かっぱえびせん、フルグラなど計14品目のパッケージ印刷インクを2色(白黒)に変更することを公式発表しました。2026年5月25日週から店頭で順次切り替わります。
背景は2026年2月以降の中東情勢緊迫化によるナフサ供給逼迫です。日本は原油輸入の約九割、ナフサの実質約八割を中東に依存しており、2026年3月にはナフサ価格が二週間で1トン600ドル台後半から1,100ドル前後へ急騰しました。塩化ビニル樹脂が1kgあたり15〜55円値上げ、断熱材は40%値上げ、TOTO・LIXIL・パナソニックがシステムバスの受注を一時停止するなど、影響は建設・住宅・食品・包装の各産業に波及しています。
「お菓子の袋が白黒になった」という驚きの先に、エネルギー安全保障と化学素材自給率という国家戦略課題があります。地方自治体レベルでも、防災備蓄、公共事業の資材調達、地元中小製造業の経営支援という形で、ナフサ危機の影響は確実に降りてきます。
対談では神社火災や養豚場火災と外国人流入を結びつける主張に触れる場面がありましたが、ここはデータを正確に示しておく必要があります。
神社・寺院の火災は消防庁統計で年間百件前後、過去二十年でほぼ横ばいから微減です。出火原因は漏電・電気系統、線香・ろうそく、たき火の飛び火、たばこ、落雷など多岐にわたります。在留外国人のうちイスラム圏出身者は約二十九万人で全在留外国人の約7%ですが、警察庁の検挙統計で神社放火犯に特定の出身者が偏って多いという事実は確認されていません。
在留ベトナム人(約六十万人)の刑法犯検挙率は約0.11%で、日本人の約0.13%と同程度かやや低い水準です。ただし、技能実習生の失踪は2023年に9,753人、うちベトナム人5,481人と高水準で、これは母国での平均六十五万円超の借金、転籍不可、劣悪な労働環境という制度設計に起因する構造問題です。民族や国籍ではなく、制度の設計が個人を追い詰めているのです。
2024年6月公布の改正法により、技能実習制度は廃止され、2027年4月1日から「育成就労」制度が施行されます。条件付き転籍の許容、日本語A1相当の事前学習義務、送出機関手数料に法定上限の設定など、構造改善が盛り込まれました。2027年は統一地方選の年であると同時に、外国人労働者制度の歴史的転換点でもあるのです。
白馬村のように、外国人住民比率13.5%でありながら国際化と地域経済再生を両立させている事例は、「外国人=リスク」というフレーミングを超える、もうひとつの現実を示しています。論じるべき真の課題は、不動産価格高騰、住居不足、生活インフラ、英語教育といった国際化の副作用への対応です。
対談の最後、二人はこう話しました。「愛国心という言葉が抽象的に飛んでしまっているけれど、本当はもっと近い。自分の住んでいる場所を愛する。地元を直視する。そこから始まるのだ」と。
地元愛とは、地元を美化することではなく、地元を直視することから始まります。年齢構成の偏った議会を、世代の混在する議会へ。報酬の低さに支えられた議員構成を、現役世代も参加できる報酬と働き方へ。閉じた予算編成を、AIで開かれた市民参加型審議へ。外国人住民を「治安リスク」として扱う言説を、共生の制度設計へ。素材危機を遠い話として済ますのではなく、地域の調達戦略として引き受ける。
いずれも一足飛びには進みません。けれども、2027年4月という一日に向けて、一年かけて土を耕すことはできます。
「投票用紙に名前を一つ書いて送ったら、自分の人生が四年間確約される。そんなわけはないですよね。
議員はただの代表で、聞きに行ってくれる電子鳩のような存在。だからこそ、一人ひとりが行政について勉強して、自分でやらなきゃいけないことが、たくさんあるのです。」
国創プロジェクトは、数字や資料をもとに観察と構造で耕す運動です。本ページが、2027年の春に向けた一つの土壌になれば幸いです。
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国創プロジェクトは、次の日本の設計図を描いています。
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