対談録 ── 加古川と全国の地方議会から

議会は、現実的に
良くできる。

「政治は変わらない」と言うのは簡単です。けれど私たちの暮らし──保育園の数も、除雪も、水道も、そのほとんどは市区町村の議会と予算のなかで決まっています。

兵庫県加古川市で歴代最年少・最多得票で当選した橋本みなみ議員と、ニセコの現場から地方財政を見つめてきた前原こうしょく。二人が語ったのは、批判ではなく「どこを、どう直せば、現場は良くなるのか」という具体策でした。

前原こうしょく ✕ 橋本みなみ
国創プロジェクト代表 × 加古川市議会議員(日本維新の会)
序 章

現場の二人が見た、いまの議会

対談は、ある日のインスタライブから始まりました。人口約25万人で一般会計約970億円の加古川市と、人口5,000人弱で予算が100億円を超えるニセコ町。規模はまるで違うのに、二人が語る議会の課題は、驚くほど同じ形をしていました。

橋本みなみ議員は、二十代で「若者不在の政治を変えたい」と出馬し、歴代最年少・最多得票で当選した一期生。国会議員の公設秘書を経て、現場の感覚を持ったまま議会に入りました。前原こうしょくは、ニセコ町議員と町長選挙への出馬を経験し、水資源・土地問題の現場で、地方財政の構造を見つめ続けてきました。

立場も世代も違う二人に共通するのは、数字を読み、AIを道具として使い、現場から動くという姿勢です。だからこの対談は、誰かを責める時間にはなりませんでした。「では、何をどう変えるか」──終始、その一点に向かっていきました。

対談より
「若いのに政治家なんて頑張るね、と言われます。でも、若い世代が頑張らなきゃいけないのが、今の日本の現実なんです。」
── 橋本みなみ
第 一 章

議会が、アナログすぎる

最初の改善点は、いちばん身近なところにありました。多くの地方議会では、議場へのノートパソコン持ち込みが認められていません。言葉ひとつ調べることもできず、紙の書類だけで審議が進みます。一週間出張から戻れば、机は書類で埋まっている。これでは現役世代の働き方とまるで噛み合いません。

橋本議員は、その実態を制度の内側で説得するのではなく、外に開く道を選びました。「一週間ぶりに登庁した新人議員のデスク」として、書類が山積みになった机の写真をSNSに投稿。反響が広がり、民意というかたちで議会を動かしていきました。変えざるを得ない環境を、外側からつくったのです。

なぜここまで遅れたのか。先輩議員に率直に尋ねたとき、返ってきた本音が象徴的でした。「若者が有利になったら困るからね」。デジタル化が進まない理由は、技術ではなく、変化への抵抗のほうにありました。

ファクトチェック

このエピソードは実話です。橋本議員が2023年1月、議会のアナログな実態をSNSで投稿したところ、匿名の議員から「不快だ」として削除を求められた、と複数のメディアで報じられています。地方議会のデジタル化は、設備の問題である以上に、合意形成の問題であることが分かります。

この章の論点
制度を内側から説き伏せるより、現状を可視化して民意で動かす。これが、少数派の改革者でも使える現実的な一手になる。
第 二 章

970億円を、誰も十分に監査できない

話は財政へ移ります。加古川市の一年間の予算は、一般会計だけで約970億円。そこには、固定経費を除いても200を超える事務事業がぶら下がっています。これを、財務の専門家ではない議員が、ひとつずつ「妥当か」「もっと安くできないか」と判断するのは、正直に言えば構造的に困難です。

前原は、本来必要なのは二つの専門性だと指摘します。使われたお金が適切かを見る財務監査の力と、事業の費用対効果を診断するコスト管理の力。同じ予算規模の上場企業なら公認会計士や診断士のチームが付きますが、地方議会にその体制はありません。だからこそ、ここに生成AIの出番がある、と二人の意見は一致しました。

  • 予算書PDFを構造化データに変換し、検索・比較できる形にする
  • 過年度との増減を自動で表にし、膨らんだ費目をあぶり出す
  • 個別事業を「類似自治体の単価」と照合し、割高・割安を見つける
  • 議事録から、その事業がどんな経緯で決まったかを要約する

これらは技術的にすでに可能で、人口数千人規模の自治体でも実装できる水準まで来ています。AIが定型分析を担えば、議員は「分析を読む人」から「分析に基づいて判断する人」へと役割を移せます。負担を減らしながら、判断の質を上げる。両立できる道です。

加古川市 人口約254,006人(令和7年6月時点)
令和6年度 一般会計予算約970億5,000万円
令和6年度 全会計予算約1,808億円
事務事業数固定経費を除き約215事業(令和7年度・事務事業評価対象)
ファクトチェック

対談中の「約1,000億円」は、一般会計(約970億5,000万円・令和6年度)を指す概数です。水道・国保などを含む全会計では約1,808億円になります。

事業の数も同様で、加古川市が事務事業評価の対象とした事業は、固定経費を除いても令和7年度で215事業にのぼります(令和6年度は199事業、固定経費を含めればさらに多い)。対談中の「100近く」を上回る規模で、人の手だけで全事業を精査するのは現実的でない、という論点をむしろ裏づけています。

第 三 章

条例は首長頼み、議員発議が少ない

三つ目の改善点は、ルールづくりそのものです。条例は、本来は議員も発議できます。けれど現実には、条例案の大半は執行部(首長側)から提出され、議員みずからが条例をつくって出すケースは限られています。チェックする側が、ルールを能動的に書く力を十分に使えていない、ということです。

前原の提案は明快でした。AIを使えば、地域の課題から条例案のたたき台を短時間でつくれる。最終チェックは弁護士など専門家に任せればいい。そして大切なのは、つくった条例を一か所に貯めて、共有・アーカイブすることです。SNSの発信は流れて消えていきますが、ウェブサイトには「点」を積み上げられます。

対談より
「企業に投資判断のためのIR情報があるように、政治家も同じものを持つべきだと思うんです。何をやって、何を変えたのか。それを残していく。」

議員一人ひとりが、誰でも採用できる条例のひな型を持ち寄り、自治体を越えて共有する。マニフェストを掲げて終わりにするのではなく、実際に動く条文として共有財にしていく。これが、現場から制度を書き換えていく具体的な経路になります。

ファクトチェック

全国の地方議会では、条例案の大半が首長(執行部)提出で、議員みずからの発議は少数にとどまる、という傾向が各種調査で確認できます。一方、AIによる条例案の起草はあくまで「たたき台」であり、最終的な法的チェックは専門家が担う、という前提が対談でも共有されていました。

第 四 章

人材の流動性が、低すぎる

なぜ議会は変わりにくいのか。根っこには、人の入れ替わりの乏しさがあります。報酬が低く、現役世代が専業で暮らすのは難しい。結果として、ある世代に議席が偏り、「変えない方が楽だ」と考える空気が固定化されていきます。流動性の低さが、改革の停滞そのものを生んでいるのです。

橋本議員は、ここで年齢の話に一歩踏み込みます。本質は若いかどうかではなく、AIのような道具を使いこなす努力ができるかどうか。そして、努力する人がきちんと当選できる「競争性のある議会」になっているか。多様な世代が出入りし、声を聞いて対応する人が選ばれる。その流動性こそが大事だと語りました。

前原は、入り口で人を選びすぎないことを説きます。「環境が人を育てる」。自分自身、議会に入って初めて政治への思いを持てた、と。だから、まず多様な人が入りやすくし、入った後に切磋琢磨してもらう。失敗を恐れて門を狭めるより、裾野を広げる方が、結局は議会を強くする、という考え方です。

31,555人
全国の地方議員総数
(2024年12月・総務省)
約55歳
加古川市議会の
平均年齢(対談時点)
約59歳
全国の市議会議員
平均年齢
第 五 章

これからの連携 ── 政党も、超党派の学び合いも

では、改革をどう広げるか。ここで二人は、それぞれの立場から少しずつ違う絵を描きました。けれどそれは、対立ではなく、補い合う二つの道として語られました。

前原が重視するのは、超党派の学び合いです。地方議会は数十人規模。社会課題をひとつずつ解いていくなら、思想で固まる政党より、DX・AI予算監査・条例づくりといったスキルを共有する民間プロジェクト型の連携のほうが機動的だ、と。「正しいことを、できる人が持ち寄る」場づくりです。

一方で橋本議員は、政党に身を置く立場から「数は力」の現実も語ります。街づくりや財源は国とつながって初めて動く部分があり、改革に前向きな国会議員との連携や、政党という器が持つ推進力も軽視できない。意思のある人が一つに集まる新しい形は、とても良いことだ、と。

この章のまとめ

アプローチは違っても、向かう先は同じ──「現場を、良くする」。政党が持つ推進力と、超党派が持つ学び合い。どちらかではなく、両方が要る。二人の対話は、その確認に着地しました。

対談より
「同じ志を持つ人が、立場を超えて連携できたらいい。意思のある方が一つに集まる新しい形は、すごくいいなと思うんです。」
── 橋本みなみ
終 章

政治は、面白い

対談の終わり、二人が口を揃えたのは、意外なほどシンプルな言葉でした。議会に入る前と後では、志がまるで違う。環境が、人を政治に向き合わせてくれた──と。だからこそ、批判で終わらせず、現場から一つずつ直していく。その積み重ねにしか、変化は宿らないのだと。

アナログな議会はデジタルに。人の手に余る予算審議はAIの助けを借りて。首長頼みの条例づくりは議員の発議へ。偏った世代構成は、多様な人が出入りする議会へ。どれも一足飛びには進みません。けれど、向かうべき方向ははっきりしています。

対談より
「投票用紙に名前を一つ書いて送ったら、四年間が確約される。そんなわけはないですよね。議員はただの代表。だからこそ、一人ひとりが行政を勉強して、自分でやることがたくさんあるんです。政治は、面白いんですよ。」
── 前原こうしょく

国創プロジェクトは、観察と構造で耕す運動です。この対談が、地方議会を現実的に良くしていく、その小さな一歩になれば幸いです。

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