kokuso.org 政令市の財政危機と札幌市の行政改革 目次

財調ゼロの五市が
札幌に示す改革の急所

財政調整基金(財調)がゼロになった政令市は、何を削り、何で穴を埋めたのか。名古屋・川崎・大阪・堺・京都の前例と、札幌市の「2031年度に基金が枯渇する」という予測を一次資料で検証し、札幌が取るべき改革と取るべきでない改革まで整理した。

公開
2026年10月22日
データ時点
2026年10月21日までに公表された資料
調査・編集
前原こうしょく
出典
198件(各市・総務省の公表資料が中心)
札幌市の財政調整基金 年度末残高億円、市公表ベース

2031年度に枯渇するとされているのは、財調・まちづくり推進基金・土地開発基金の現金分を合わせた「活用可能基金」(2026年度末は865億円の見込み)。財調単体は、それより速く減っている。出典:札幌市「令和7年度決算の概要」、同「令和9年度予算編成方針の概要」。2026年度末は当初予算どおり105億円を取り崩した場合。

結論

政令市で財政調整基金(財調)がゼロかほぼゼロになった前例は、確かに複数ある。名古屋市(2000年度末0.27億円)、大阪市・堺市(2007年度末0)、京都市(2016・2019・2020年度末0)、川崎市(2002年度末4.2億円)で、いずれも財政再建団体・財政再生団体にはならなかった。

ただし、破綻を避けられた理由には共通の影がある。名古屋・川崎・京都・千葉は、借金返済用に積み立てた減債基金(公債償還基金)から借りたり、計画外に取り崩したりして穴を埋めた。京都の流用累計は642億円に達し、川崎の借入残高は今も497億円ある。

危機を抜け出した力は三つだった。

札幌市の「2031年度枯渇」予測は、財調単体の話ではない。財調・まちづくり推進基金・土地開発基金の現金分を合わせた「活用可能基金」についての予測である。

財調単体はより早く減っており、2026年度末に119億円(市公表ベースの見込み)と、市が守るとしてきた100億円の下限に迫る。

札幌の人口千人当たり職員数は政令市最少(10.05人)で、市民1人当たり人件費も類似団体平均より約20%低い。他市が主力にした人件費削減の削り代は小さい。

一方で建設事業費は2025年度1,454億円から2026年度1,833億円へ膨らみ、市自身の推計でも、将来の財政再生リスクは建設債の増加から生じる。

このため札幌が取るべき改革の軸は五つになる。

避けるべきは次の四つである(提言は他都市の事例からの推論)。

1検証した10項目に大きな誤りはないが、8項目は基準と範囲の補足が要る

本報告書の表記ルールは次のとおり。金額は億円で統一し、原資料が千円・百万円の場合は換算した。「年度末」は特記がない限り翌年3月31日時点を指すが、川崎市の公表値は出納閉鎖期末(翌年5月31日)の残高である。

決算・決算見込・予算・見込(推計)の区別は数字ごとに記した。総務省「市町村決算カード」(以下「決算カード」)は普通会計・決算統計ベースの全国統一の物差しで、各市が独自に公表する残高とは基準が違う場合がある。一次資料にもとづく事実には出典を付けた。筆者の解釈・推論には

解釈と記した。

# 主張 判定 一次資料にもとづく正しい数字・補足 主な出典
1 名古屋市:2000年度末に財調が実際にゼロ 要補足 2000年度(平成12年度)末の財調は27百万円=0.27億円(決算、3月31日)。
億円単位の市資料では「0」と表示されるが、実額はゼロではない。
取崩し可能な5基金の合計も、1992年度末810億円から14億円へ減った。
同年度決算では公債償還基金から80億円を借り入れ、市自身が「実質的な赤字」と記した。
「実質的に枯渇」は正確、「実額がゼロ」は不正確
名古屋市 基金現在高の推移、同 積立・取崩の状況、同 公債償還基金からの借入れ
2 名古屋市:事業見直し・人件費抑制などで2024年度末に161億円まで回復 数値は正確/表現は要補足 2024年度末161億円(決算、市公表)で、決算カードの160.9億円と一致する。
ただし過去最高は2022年度末の377億円で、161億円は2年続けて減った後の値。
2025年度末は153億円(見込)、2026年度末は36億円(当初予算後の見込)と、再び枯渇に近づいている。
削減の主力は人件費ではなく投資的経費だった(1997年計画の効果1,196億円のうち675億円)。
100億円台に戻るまで11年(2011年度138億円)かかった
名古屋市の財政 令和7年版、広報なごや2026年5月号、決算カードR6愛知県、名古屋市 これまでの行政改革
3 川崎市:1991年度311億円→2002年度末約4億円 正確(基準を補足) 市公表値は出納閉鎖期末(翌年5月31日)の残高。
1991年度310.95億円、2002年度4.23億円。
決算カード(2002年度)も4.2億円で一致する。
3月31日時点の残高は未確認
川崎市 今後の財政運営の基本的な考え方 2026年3月、川崎市IR資料 2006年3月、決算カード2002年度索引
4 川崎市:大規模な行革で10年間に職員約2,700人削減 正確 2002年4月の16,143人から13,410人へ、2,733人(16.9%)減(2002〜2011年度の10年間)。
数字は職員数の差し引き=純減で、定数削減の数字ではない。
教育職員(市費)と消防職員を含み、当時の県費負担教職員は含まない。
公営企業職員を含むかは未確認。
11年間では2,941人(18.2%)減。
2011年度を13,965人とする別の表もあり、資料間で一致しない
川崎市 2012年8月資料、川崎市 行財政改革パンフレット、川崎市 2011年7月資料
5 川崎市:その後、基金残高も回復 要補足 財調は2015年度50億円、2022年度88億円、2024年度59億円(決算カード58.6億円)、2025年度145億円(決算見込)で、ピーク311億円の半分以下にとどまる。
この間、2012〜2019年度に減債基金から累計537億円を借りて収支不足を埋めており、2025年度末の借入残高は497億円
今後の財政運営の基本的な考え方 2026年3月、令和7年度一般会計決算(見込)のポイント
6 大阪市と堺市も2007年度末に財調ゼロ 正確(要補足) 決算統計にもとづく政令市比較では、両市とも0千円(2008年度末も0)。
ただし大阪市には、財調という名前の基金が2012年度まで存在しなかった。
2012年度に都市整備事業基金から1,186億円を移して創設している。
2007年度末にも一般会計の蓄積基金が約1,114億円(見込)あり、実質収支は2025年度まで37年連続の黒字である。
堺市は財調条例(1964年制定)を持ちながら残高はゼロで、特定目的基金を357.4億円持っていた。
「財調という区分でゼロ」であって、「手元資金ゼロ」ではない
浜松市 財政のすがた H19、同 H20、大阪市 H24普通会計決算見込、大阪市 財政状況2008年6月、大阪市 R7決算見込速報
7 京都市:2016年度末と2019年度末に財調ゼロ 正確(要補足) 2016年度末は0(残額8億円を全額取崩し)、2019年度末も0(「政令市で唯一残高が0円」)。
加えて2020年度末も0で、2018年度末の36億円も実質は17億円だった。
財調ゼロの間は公債償還基金の計画外取崩しで収支を埋め、その累計は2020年度末に642億円に達した
平成28年度決算概況、令和元年度決算参考データ集、令和2年度同、平成30年度同、令和3年度同
8 京都市:2025年度末に172億円まで回復 正確(要補足) 2025年度末は171.64億円(17,164百万円、一般会計の速報値、2026年8月公表)。
うち97億円は2026年度当初予算の財源としてすでに充当されており、市自身が「除くと75億円」と注記している。
2026年度末は156.7億円の見込み(9月補正時点)。
計画外取崩しの残り(市の呼称は「過去負債」)は2025年度末400億円、2026年度9月補正後365億円で、完済は2038年度が目途
令和7年度決算概況、令和8年度9月補正予算の概要、行政経営の大綱の実施状況
9 政令市でも財調ゼロの前例は複数ある。基金ゼロと財政破綻は別 正確 上の5市に加え、千葉市も2008年度末に財調が7億円まで減ったが、いずれも財政再建・再生団体になっていない。
財政再生団体の基準は、実質赤字比率20%(市町村)、連結実質赤字比率30%、実質公債費比率35%で、財調の残高は基準に入らない。
ただし各市は財調ゼロの裏で、減債基金からの借入れなど将来負担の先送りをしていた。
「ゼロでも問題ない」わけではない
総務省 早期健全化基準と財政再生基準、千葉市 財政の概要
10 札幌市:2031年度に基金が枯渇する予測 要補足(「財調が枯渇」と読むなら不正確) 出典は「札幌市の今後の財政運営について(今後10年間の財政推計)」(2026年1月)。
枯渇するとされたのは財調+まちづくり推進基金(現金分)+土地開発基金(現金分)=「活用可能基金」である。
2026年10月の令和9年度予算編成方針でも、枯渇年度は令和13年度(2031年度)のまま。
2026年度末の活用可能基金は865億円の見込み。
財調単体は2025年度末224億円(市公表)で、2026年度に当初予算どおり105億円を取り崩すと119億円になる見込み。
推計は、2027年度以降の物価・人件費単価の上昇と、景気による税収の変動を織り込んでいない
札幌市 今後10年間の財政推計、令和9年度予算編成方針の概要、令和7年度決算の概要

解釈繰り返し出てくる補足は三つに集約できる。一つ目は「ゼロ」の意味である。実額がゼロ(京都)、億円表示で丸めた結果のゼロ(名古屋)、財調という区分がなかったためのゼロ(大阪)が混在している。

二つ目は残高の基準である。3月31日か出納閉鎖期末か、決算カードか市公表値かで数字が変わる。三つ目は「回復」の中身である。

回復の裏に借入残高があったり(川崎)、すでに使い道が決まった分が含まれていたり(京都)、その後また減っていたり(名古屋)する。市民向けに発信するときは、数字に「どの基準の・いつの・決算か見込か」を必ず添えるべきである。

2決算カードでそろえると、札幌の市公表値だけが他市より大きく出る

各市の財調を同じ物差しで並べるため、決算カードの「積立金現在高・財調」欄を2002〜2024年度の10時点で集めた(普通会計、決算統計ベース、億円)。決算カードはWeb上で2001年度分以降しか公開されておらず、2000年度以前の値は未取得である(総務省 決算カード索引)。

年度末 札幌 名古屋 川崎 大阪 堺 京都 千葉 新潟 福岡
2002 99.2 9.0 4.2 0.0 41.5 3.9 28.4 100.7※a 85.6
2005 142.1 15.6 18.2 -※b -※c 3.9 18.5 205.3 73.8
2007 138.7 32.2 17.0 -※b -※c 9.7 7.7 179.4 103.0
2010 98.9 75.0 41.7 -※b 17.9 0.1※d 10.9 158.8 98.4
2015 172.9 109.2 50.4 1,679.5 18.1 13.7※e 54.4 56.1 223.8
2016 133.9 140.7※e 54.4 1,666.4※e 18.2※e -※e 71.1 36.1 242.0
2019 223.9 124.6 63.8※e 1,616.1 25.0 -※f 89.3 45.1※e 340.7
2020 258.9※g 142.5 65.2 1,663.8 85.6 -※f 128.1 34.9 368.7※e
2022 278.9 377.2 88.2 2,452.3 198.3 94.4 170.4 88.2 368.3
2024 260.7 160.9 58.6 2,869.5 273.2 185.0 99.4 50.3 366.2
2024年度の標準財政規模比 4.6% 2.3% 1.4% 31.5% 11.3% 4.3% 3.7% 2.1% 7.8%

2024年度の出典は決算カード(北海道、愛知、神奈川、大阪、京都、千葉、新潟、福岡)で、それ以前は各年度の索引ページのPDFである。注記は次のとおり。※aは2005年合併・2007年政令市移行より前の旧新潟市の値。

※bは大阪市の財調欄が「-」(2002年度は「0」)で、財調そのものが未設置だった時期にあたる。※cは堺市の財調欄が「-」(堺市の政令市移行は2006年)。※dは抽出値7,166千円で要確認。

※eはPDFのテキスト抽出で列が崩れており、前年度の列と取り違えている可能性が残る。※fは京都市の財調欄が「-」と読めるが、隣の1.2億円(2019年度)・1.1億円(2020年度)が財調の値である可能性もある。※gは北海道の決算カードを取得できず、札幌市 令和4年度財政状況資料集の値で代えた。

この表を各市の公表値と突き合わせると、重要な事実が一つ浮かぶ。名古屋(2022年度 決算カード377.2億円/市公表377億円)、川崎(88.2/88)、大阪(2,452.3/2,452)、堺(198.3/198)、京都(94.4/94)は、決算カードと市公表値が一致する。

札幌だけは市公表値が決算カードより大きい(札幌市 令和7年度決算の概要、札幌市 令和6年度財政状況資料集)。

札幌市の財調 年度末 決算カード・財政状況資料集(普通会計、決算統計ベース) 市公表値(決算の概要) 差
2021年度 261.9億円 311億円 49.1億円
2022年度 278.9億円 314億円 35.1億円
2023年度 288.9億円 320億円 31.1億円
2024年度 260.7億円 283億円 22.3億円
2025年度 未確認(2025年度の決算カードは画像PDFで読み取れず、財政状況資料集は未公表) 224億円 -
2026年度(見込) - 119億円(2025年度決算反映後)/105億円(予算編成時点、北海道新聞) -

解釈2024年度の差22.3億円は、同年度の決算剰余金から積み立てた22億円と一致する。2023年度の差31.1億円も、普通会計ベースの2023年度末288.9億円に31億円を足し、2024年度の取崩し59億円を引くと、2024年度末の260.7億円にほぼ一致する。

市公表値は「決算統計ベースの年度末残高+その年度の決算剰余金から翌年度に積み立てる額」と読むと、数字がよく合う。市の資料で定義を確認したわけではないので推定にとどまるが、この推定に立てば2025年度末の普通会計ベースは200億円台前半になる計算である。

決算カードが出るまでは「未確認」と扱うべきである。実務上の結論は二つある。他市と比べるときは決算カードの値(2024年度末260.7億円)を使うこと。

札幌の時系列を語るときは市公表値(224億円、119億円見込)を使い、「市公表ベース」と明記することである。なお2017年度に県費負担教職員の給与負担が道府県から政令市に移り、各市の標準財政規模(比率の分母)が大きく増えたとみられる。2016年度以前と2019年度以降の比率は単純に比べないほうがよい(制度変更の一般論で、一次資料での確認はしていない)。

3五市の危機は原因が違い、出口は「隠れ借入」と税収回復で似ている

下の二つの表は、五市と参考の札幌を同じ項目で並べたものである。出典は各都市の節に、同じ数字とともに示した。

都市 危機の時期 財調の最低値(基準) 主な原因 主要施策
名古屋 1992〜2004年度(1999〜2004年度予算は償還基金からの借入れに依存) 2000年度末0.27億円(決算、3月31日)。取崩し可能5基金の計14億円 市税の横ばい(1992年度5,106億円→2000年度4,805億円)、国の経済対策に呼応した公共事業(投資的経費は1995年度3,067億円)、公債費の倍増、扶助費増 投資的経費を35.7%削減、予算定員の純減、外郭団体の整理(49→34)、敬老パスの一部負担
川崎 1990年代後半〜2009年度(2002年7月に財政危機宣言) 2002年度末4.23億円(出納閉鎖期末、市公表)/4.2億円(決算カード) 企業業績の悪化と地価下落による市税減、交付税の減、扶助費・公債費の増。財政力指数が1を割った(2001年度0.932) 3か年プランの連続、職員純減、給料表の平均4.8%引下げ、委託・指定管理・保育所民営化、地下鉄の着工延期
大阪 2000年代前半〜半ば(資金不足は2006年度まで) 2007〜2011年度末0(財調が未設置)。2012年度に創設 三セク・大型開発の損失(オーク200の和解金637億円など)、生活保護の急増(保護率5.72%)、職員厚遇、市債残高(全会計)5.5兆円 市政改革マニフェスト(職員8,623人・経費2,719億円の削減)、市政改革プラン、外郭団体146→14、地下鉄・バス民営化
堺 財調0は2007・2008年度末。本格的な危機は2016年度以降で、2021年2月に財政危機宣言 2007・2008年度末0(決算統計)。特定目的基金357.4億円は保有 収支見通しを改訂しないまま独自サービスを拡充し、施設整備を続けた。経常収支比率が100%を超えた 財政危機脱却プラン(2030年度効果45.9億円)、手数料引上げ、ハード事業の2割縮減、施設の廃止
京都 2010年代後半〜2021年度(財調0は2016・2019・2020年度末) 0(市公表、決算) 地下鉄東西線の建設費と一般会計による支援、国基準超の独自施策223億円、他都市より171億円多い人件費、コロナ 行財政改革計画2021-2025(職員555人純減)、敬老乗車証の見直し、補助金見直し、宿泊税の引上げ
札幌(参考) 2025年度〜(2031年度に活用可能基金が枯渇する予測) 財調は2025年度末224億円(市公表)、2026年度末119億円見込。決算カード基準の2025年度末は未確認 一般財源負担の増加(2023→2026年度で扶助費約200億円・公債費約140億円・職員費約140億円)、建設事業費の急増、除排雪費の増加、税源の薄さ 事務経費15%削減、敬老パスの75歳化、施設カルテ、アセットライト経営研究会、雪対策基本方針の策定
都市 職員削減(区分) 市民の痛み 企業の痛み 回復状況 現在の課題
名古屋 予算定員で6,583人純減(1997→2010年度、市長部局等+企業局) 敬老パスに一部負担(年1,000〜5,000円)、使用料改定、駐車場の原則有料化、保育所民営化、プール等の廃止 投資的経費が1995年度3,067億円→2001年度予算1,666億円、さらに35.7%削減。
外郭団体への補助金・委託料も減。
業界への定量的な影響は未確認
財調が100億円台に戻るまで11年(2011年度138億円)。ピークは2022年度377億円 2026年度末36億円見込、償還基金から453億円を借入れ予定、経常収支比率101.2%、市民税5%減税(年約100億円の減収)
川崎 2,733人純減(2002→2011年度、職員数の差し引き。県費負担教職員は含まない) 敬老パス有料化、老人医療費助成の廃止、保育所民営化、学童保育の統合、ごみ収集を週2回へ 地下鉄・ドーム球場の延期・中止、用地取得の圧縮。定量的な影響は未確認 財調は2015年度に50億円台、2025年度決算見込145億円。ただし減債基金からの借入残高497億円 ふるさと納税による減収が交付税で補塡されない(2025年度156億円)、2027〜29年度に減債基金から計200億円の借入れを想定
大阪 8,623人減(2005→2010年、全会計。独法化による移籍を含む)、さらに6,152人減(2011→2014年)。
2017年に教職員11,061人が加わり、2018年に交通局(約5,750人)が民営化で移籍
敬老パスに負担導入(年3,000円+1乗車50円→2018年から50円のみ)、上下水道福祉措置の見直し、保育所・幼稚園の民営化、文化団体への補助削減 随意契約が321億円→36億円、外郭団体146→14、三セク処理 財調は2025年度末3,099億円(決算見込)、標準財政規模比30%超 扶助費(2025年度一般会計7,598億円見込)が収支不足見通しの主因
堺 2021年度比4%程度の削減目標(教職員・消防を除く)、実績は未確認 手数料200円→300円、放置自転車の撤去手数料を倍額、施設の廃止、阪堺線の運賃210円→230円。
高齢者のバス割引の年齢引上げは議会が否決
ハード事業費の2割縮減、観光コンベンション協会への補助縮減 財調は2025年度末301億円(決算見込)。2023年1月に危機宣言を解除 経常収支比率98.5%、2035年度に収支不足80.9億円の見通し
京都 555人純減(2021→2024年度、市長部局等344人・消防150人・教育委員会61人。会計区分は明記なし) 敬老乗車証の75歳化・負担金を最大3倍・高所得者を対象外(陳情46件)、補助金56件を終了 宿泊税の引上げ(2026年3月から最高1泊1万円)、投資的経費の一般財源の抑制 特別の財源対策は2022年度決算からゼロ。財調は2025年度末172億円(うち97億円は2026年度予算に充当済み) 過去負債365億円(2026年度9月補正後)、実質公債費比率12.2%、子育て世代の転出超過(学識者の指摘)
札幌(参考) 1991→2015年に約3,800人削減(教職員移管前、会計区分は未確認)。2020→2025年は全会計で465人増 敬老パスの75歳化(2026年4月)、使用料・手数料の引上げ 2026年度の建設事業は1,833億円(前年度比約1.3倍)。削減による影響はまだ生じていない - 2031年度に活用可能基金が枯渇する予測、実質単年度収支の赤字(2024年度△75.7億円)

解釈原因は大きく三つの型に分かれる。名古屋・川崎は「税収減と、景気対策の投資・公債費が重なった景気型」、大阪・京都は「過去の大型投資の後年度負担に、扶助費・独自施策・人件費が重なった構造型」、堺は「見通しを改訂せず独自サービスと施設を増やした政策型」である。

それでも出口には二つの共通点がある。一つ目は、財調が尽きた後の穴埋めに減債基金・公債償還基金を使ったことである。名古屋は2000年度決算で80億円、2001年度末の見込みで累計約323億円を借り入れた。

川崎は2003年度に17億円を借り、2010年代には累計537億円を借りた。京都の計画外取崩しは累計642億円に達した。例外は大阪で、市は満期一括償還の積立金からは「借入れは行わず」と明記している(大阪市IR資料 平成29年)。

二つ目は、回復の最後の決め手が税収増だったことである。大阪の市税は2025年度に8,967億円(決算見込)、京都は2025年度に3,411億円で、ともに過去最高だった。川崎の2025年度の市税も4,162億円(決算見込)で、4年続けて過去最高を更新した。

職員削減の数字は、比べる前に性格をそろえる必要がある。各市が公表する「削減数」は、予算定員、職員数の差し引き、定員管理調査の普通会計職員など定義が違い、民営化・独法化による移籍や、2017年度の教職員移管による増加を含むものと含まないものが混在している。

都市 削減数・期間 数字の性格 会計範囲・移籍・教職員移管 出典
名古屋 6,583人(1997→2010年度)、7,432人・22.9%(1997→2013年度) 予算定員の純減 市長部局等(4,005人)+企業局(2,578人)で、全会計に近い。
2017年度に教職員10,039人が移譲され、予算定員は2016年度24,745人→2017年度34,718人に増えた
新たな定員管理計画、定員管理の方針、名古屋市の定員
川崎 2,733人・16.9%(2002→2011年度) 職員数の差し引き(純減) 市費の教育職員と消防職員を含み、県費負担教職員は含まない。公営企業を含むかは未確認 川崎市 2012年8月資料
大阪 8,623人(2005.10→2010.10) 職員数の削減 全会計(交通・水道を含む)。2006年5月時点の削減2,468人のうち1,020人は独法化による移籍 大阪市 はやわかり、市政改革の取組 2006年10月
大阪 普通会計4,572人・公営企業等2,961人(2005→2009年) 定員管理調査ベース 2006〜2007年度は新規採用を凍結 総務省 研究会資料 2011年
大阪 10,998人・約23%(2005.4→2021.4)。教職員を除くと約22,000人・約46% 移籍を含み、純減ではない 2017年4月に教職員11,061人が加わり、2018年4月に交通局(2017年4月時点で5,750人)が移籍 市政改革の意義と取組成果、淀川区広報
京都 555人(2021→2024年度) 計画上の「差し引き」削減の実績(純減) 市長部局等344人、消防150人、教育委員会61人。交通局・水道局は内訳にない 行財政改革 総括別紙
京都 4,120人(2007→2023年度) 職員数の差 会計区分は明記なし。2011年度の病院の独法化による664人の移籍を含む 市民しんぶん2023年12月、平成23年度決算概要
札幌 約3,800人(1991→2015年) 職員数の差 教職員移管前。会計区分は未確認 札幌市 行財政改革推進プラン関連資料
神戸 7,190人(1996→2015年度) 職員数の差(震災当時の総定数の約3分の1) 総定数ベース 神戸市 行財政改革2020
北九州 2,870人(1996→2013年) 純減(増員1,865人、減員4,735人) 減員のうち1,690人は委託化・嘱託化・IT化による置き換え 北九州市 職員数の削減
浜松 1,078人(2004→2015年) 定数の削減 - 浜松市 定員適正化計画

4名古屋:公共事業を35.7%削って借入れ依存を断ったが、26年後に同じ構図が戻った

名古屋市の財調は1992年度末の116億円から毎年取り崩され、2000年度末に27百万円まで減った。取崩し可能な5基金(大規模施設整備積立基金・高速度鉄道建設積立基金・高齢化対策事業基金・公債償還基金の財源対策債等償還財源分・財調)の合計も、1992年度末810億円から2000年度末14億円へと、8年で約796億円が消えた(基金現在高の推移)。

原因は、税収の停滞と投資の膨張が重なったことである。市税は1993年度に戦後初めて減り、1992年度5,106億円から2000年度4,805億円へと伸び悩んだ(歳入の推移、(1)歳入)。一方、国の経済対策に呼応した公共事業で、投資的経費は1995年度に3,067億円のピークに達した。

その財源にした市債の償還で、公債費は10年で2倍近くに膨らんだ((2)歳出、事務事業の効率化とコスト縮減)。もとは不交付団体だった名古屋の地方交付税は、1992年度8億円から2000年度474億円(過去最高)へ増えた。2001年時点の見通しでは、2003年度に657億円の収支不足が見込まれていた(今後の収支見通し)。

1999年度以降、市は満期一括償還のための公債償還基金から「緊急避難的に借入れ」なければ予算を組めなくなった。2000年度決算で80億円を借り、2001年度末の見込みでは借入累計が約323億円になった(公債償還基金からの借入れ、積立・取崩の状況)。改革は松原武久市長のもとで段階的に重ねられた。

行政改革実施計画(1997年12月策定、1998〜2001年度)は効果額1,196億円のうち675億円(56%)が投資的経費の抑制で、人件費の削減は131億円だった(これまでの行政改革の取組み)。財政健全化計画(2001年9月策定、2001〜2005年度)では、投資的経費を2001年度予算比で35.7%(564億円)削り(目標は20%)、人件費を累計105億円(目標100億円)削った。

2002〜2005年度の効果額は1,383億円で、2005年度に償還基金から借りずに予算を組める状態に戻った(新財政健全化計画 本文)。外郭団体は2005年の49団体から2010年度末に34団体へ減り、その常勤職員は1,517人(35.5%)減った(行財政集中改革計画 取組結果)。

職員は予算定員で管理され、1997年度32,399人から2010年度25,816人へ6,583人が純減した。1997〜2013年度で見ると7,432人(22.9%)の純減である(新たな定員管理計画、定員管理の方針)。この予算定員は市長部局等と企業局(交通・上下水道)を合わせた全会計に近い数字で、普通会計の数字ではない。

2017年度には県費負担教職員10,039人の移譲で、予算定員が2016年度の24,745人から34,718人に跳ね上がった。2026年度は34,070人である(名古屋市の定員)。

市民の負担増として一次資料で確認できたのは次のとおりである。敬老パスへの一部負担金の導入(2004年9月、所得に応じて年1,000円・3,000円・5,000円)、公の施設の使用料改定(2005・2006年度)、市の駐車場の原則有料化、保育所の民営化、冷水プール3施設など5施設の廃止(敬老パス報告書、受益者負担の適正化、行財政集中改革計画 取組結果)。

ただし敬老パスの負担金収入は年約10億円で、事業費約130億円の7〜8%にすぎない。受益者負担の適正化全体でも、2002〜2005年度の効果は42億円だった(新財政健全化計画)。企業側の痛みの中心は公共事業の縮小で、投資的経費は1995年度3,067億円から2001年度予算1,666億円(54.3%)へ減り、さらに健全化計画の期間に35.7%削られた。

外郭団体向けの補助金・委託料も、2001年度当初498億円から2005年度当初449億円へ減った(第2次行財政改革計画 取組結果)。地元建設業の受注や倒産への定量的な影響は未確認である。

名古屋市は財政力指数0.98(2024年度、政令市2位)と税収の厚い都市だが、経常収支比率は101.2%で政令市最下位、財調は標準財政規模比2.3%と薄い(決算カードR6 愛知県、zaisei-karte 名古屋)。財調が100億円台に戻ったのは枯渇から11年後の2011年度(138億円)だった。

2022年度の377億円をピークに再び減り、2026年度末は36億円の見込みである(広報なごや2026年5月号)。背景には二つの政策判断がある。一つは2010年度に始めた市民税減税である。

2012年度以降は5%減税が恒久化し、個人市民税の減収だけで2025年度は102億円の見込み(市の減税ページ。2026年5月の収支見込みでは104.3億円)と、財調の目標額100億円とほぼ同じ規模になっている(市民税減税について、令和7年度一般会計収支見込み)。

もう一つはアジア・アジアパラ競技大会である。2026年度は大会経費を対象に公債償還基金から453億円を借り入れ、2026〜2029年度の収支不足は922億円・600億円・628億円・485億円と見込まれている(令和8年度予算編成について)。一般会計の市債残高は、2026年度末見込みの1兆9,926億円で過去最高(2004年度末1兆9,089億円)を上回る(今後の財政運営)。

なお普通会計ベースの過去最高は2004年度の1兆7,759億円で、市債残高は会計の範囲で数字が大きく変わる。

解釈2000年前後と同じ「財調の枯渇と償還基金からの借入れ」という組み合わせが、26年ぶりに戻りつつある。名古屋の回復は構造を変えたというより、景気と政策判断に左右される一時的なものだったと読める。

5川崎:2,733人の純減で再建団体転落を避けたが、減債基金からの借入497億円が残る

川崎市の財調は1991年度の311億円をピークに減り続けた。1998年度に96億円、2001年度に42億円となり、2002年度には4.23億円(出納閉鎖期末)まで落ちた(今後の財政運営の基本的な考え方 2026年3月、IR資料 2006年3月)。市は2002年7月に「財政危機」を宣言した。

そのまま運営を続ければ、2005年度に一般会計が赤字決算となり、2006年度に財政再建団体へ転落するという見通しを示している(新たな行財政改革プラン素案)。市は原因として、2002・2003年度と2年続いた市税の減少、2001年度の制度改正による地方交付税の大幅な減少、扶助費と公債費の増加を挙げる(平成15年度決算見込の概要)。

法人関連の税収と地価に支えられた都市で、財政力指数(3年平均)は1995年度の1.076から2001年度の0.932へと1を割っていた(IR資料 2009年3月)。2002年9月の試算では、改革をしなければ2007〜2009年度に毎年775億円の収支不足が出るとされた(IR資料 2005年3月)。

第1次行財政改革プラン(2002年9月、2002〜2004年度)は約3年で効果300億円を目標とし、320億円を達成した。以後、第2次(2005〜2007年度)、集中改革プラン(2005〜2009年度)、第3次(2008〜2010年度)、第4次(2011〜2013年度)と続いた(第2次プラン はじめに、計画の考え方 2015年7月)。

改革効果の累計は2002〜2012年度で787億円と報告されている(行財政改革パンフレット)。

解釈ただしこれは各年度の予算に表れた削減水準を積み上げた数字で、787億円の現金が浮いたことを意味しない。改革の中身は四つあった。一つ目は人件費で、給料表を平均4.8%引き下げ、特殊勤務手当を55種から12種に整理し、2005年10月以降は管理職手当を50%削減した。

共済掛金の事業主負担割合も65.3%から60.0%に下げた。二つ目は業務の外部化で、粗大ごみ収集・学校給食の調理・水処理センターの運転などを委託し、200施設に指定管理者制度を入れた(効果は年約11億円)。三つ目は大型事業の見直しである。

初期整備区間の総事業費が約5,226億円だった縦貫高速鉄道を2003年6月に「5年程度着工延期」とし、新川崎ドーム球場は中止の方針案をまとめた。四つ目は土地で、土地開発公社などの先行取得用地を2000年度当初の2,153億円から2010年度末の236億円(見込み)へ圧縮した(パンフレット、平成17年度の状況報告、2011年7月資料、地下鉄 再評価調書、平成14年度市政方針、IR資料 2005年3月)。

地下鉄計画は2018年に正式に廃止された(二次情報)。一方で、退職手当債の発行や満期一括償還の積立の繰延べといった、将来に負担を回す型の財源対策も使っている(資料3)。

職員は2002年4月の16,143人から2011年度の13,410人へ2,733人(16.9%)減り、一般会計の職員給(予算額)は2002年度923億円から2012年度676億円へ247億円(26.7%)減った(2012年8月資料)。この数字は職員数の差し引き(純減)で、市費の教育職員(2007年4月時点で439人)と消防職員を含み、県費負担教職員は含まない(職員配置状況と財政)。

現在(2025年4月1日)の職員数は全会計で20,270人、普通会計で16,785人である。これは2017年度の教職員移管後の数字なので、2002年の値と直接は比べられない(令和7年度 給与・定員管理等)。

市民の痛みは高齢者と子育て世帯に集中した。1974年から無料だった敬老パスを2004年7月に一部負担制へ変え、2020年時点ではフリーパスが月1,000円、コイン式が1乗車110円である(敬老パスのあり方検討会議資料)。老人医療費助成・在宅高齢者介護援助手当・交通災害共済・市民保養所を廃止し、がん検診の自己負担と保育料を見直した(パンフレット)。

保育所は2003年度に公設民営化を始め、2004年度時点の公立88園のうち計31園を民営化する計画で進めた。2003年4月には学童保育を全児童対策と統合した「わくわくプラザ」を市立小学校全114校で始め、2013年9月には普通ごみの収集を週3回から週2回に減らした(パンフレット、こども未来局資料)。

わくわくプラザについては、2022年12月になっても検証を求める陳情が議会に出ている。逆に、水道・工業用水道の料金は値下げした。企業への影響を数字で示す資料は見つからなかった。

解釈大型事業の中止・延期と用地取得の圧縮は建設・不動産関連の需要を減らし、委託化は民間に受注機会を生んだと考えられる。

川崎市は財政力指数1.06(2024年度、政令市1位)で、普通交付税の不交付団体である(令和6年度 財政状況資料集)。それでも財調の回復は遅く、2015年度にようやく50億円台に乗り、2024年度は59億円、2025年度の決算見込みで145億円になった(令和7年度決算見込のポイント)。

その間の収支不足は、2012〜2019年度に減債基金から累計537億円を借りて埋めた。2025年度末でも497億円が残っている(今後の財政運営の基本的な考え方 2026年3月)。不交付団体なので、ふるさと納税による市税の減収は交付税で補塡されない。

2025年度は減収が約156億円、寄附の受入れが43億円で、差し引き113億円の流出(過去最大)だった(ふるさと納税 報道発表 2026年8月、税理士ドットコム 2018年)。最新の収支フレームは、2027〜2029年度に再び減債基金から計200億円を借りる想定になっている。

市自身は2002〜2013年度の改革を、職員削減を主眼とする「量的改革」と総括し、2016年度以降は「質的改革」に軸足を移した(行財政改革プログラム資料)。

6大阪:「財調ゼロ」は基金の名前の問題で、改革の実体は職員・三セク・外郭団体

大阪市の「2007年度末の財調ゼロ」は、財調という名前の基金がなかったことによる。市は2012年度に、都市整備事業基金(特定財源分を除く)と公債償還基金の剰余分を一本化して財調を創設した。その際、都市整備事業基金から1,186億円を移している(大阪市 H24普通会計決算見込)。

2007年度末にも、一般会計の蓄積基金は約1,114億円(見込み)あった(大阪市 財政状況 2008年6月)。

解釈したがって、2012年度末の財調1,213億円を「ゼロから改革で積み上げた」と書くのは誤りである。

大阪市の危機の実体は、2000年代の負の遺産と構造的な扶助費だった。バブル期の三セク・開発事業の処理には、WTCの損失補償424億円、オーク200の和解金637億円、道路公社の解散に伴う代位弁済334億円、オスカードリームの和解金283億円などがあり、2014年度に処理を終えた(大阪市IR資料 平成29年)。

市債残高(全会計)は2004年度の5兆5,196億円がピークである(大阪市IR資料 R7)。生活保護の受給者は2000年度66,299人から2011年度151,648人へ2.3倍になった。保護率は2012年3月に5.72%(指定都市平均2.33%)、生活保護費は2011年度に2,978億円に達した(大阪市 生活保護資料)。

2004年以降の職員厚遇問題では、福利厚生の見直しで年約145億円、手当の整理(38手当→22手当)で約51億円を削る是正が行われた(市政改革の取組 2006年10月)。

關淳一市長の「市政改革マニフェスト」(2006年2月、2006〜2010年度)は、経費を2,719億円削減し(目標2,250億円)、職員を8,623人削減した(47,608人→38,985人、交通・水道を含む全会計)(はやわかり)。一般会計の総人件費は、2005年度2,914億円から2010年度予算2,362億円へ552億円(19%)減った(市政改革の意義と取組成果)。

ただし、2006年5月時点の削減2,468人のうち1,020人は、市立大学などの独立行政法人化による移籍で、純減ではない。総務省の定員管理調査ベースでは、2005〜2009年に普通会計で4,572人、公営企業等で2,961人減っており、2006〜2007年度は新規採用を凍結した(総務省 研究会資料 2011年)。

橋下徹市長の市政改革プラン(2012〜2014年度)は、施策・事業の見直しで一般財源432億円を削り、未利用地を479億円売却した。職員は6,152人減(37,899人→31,747人)、外郭団体は40団体減った。地下鉄・バスは2018年4月1日に民営化された(取組と成果(計画別)、市政改革の意義と取組成果)。

外郭団体は2005年7月の146団体から2020年3月の14団体へ減り、競争性のない随意契約は2010年度321億円から2014年度36億円になった(取組と成果(項目別)、プラン2.0素案)。職員数は2005年4月の47,470人から2021年4月の36,472人になった。

ただし途中の2017年4月に教職員11,061人が加わり、2018年4月には交通局(2017年4月時点で5,750人)が民営化で抜けている。市の言う「教職員の影響を除くと約22,000人(約46%)減」は、移籍・独法化を含む数字である(淀川区広報 2017年10月)。

市民に向けては、無料だった敬老パス(2011年度決算80.7億円、交付者34.1万人)に、更新手数料年3,000円(2013年度から)と1乗車50円(2014年度からの予定。開始月は未確認)を課した。2018年7月には年3,000円を廃止し、1乗車50円だけにした(京都市 他都市比較資料、おおさか掲示板 2018年1月号)。

ほかに、上下水道の福祉措置の見直し、団体運営補助の廃止、保育所の民間移管(2014年度13か所、2015年度10か所、プラン2.0期に17か所)、幼稚園の民営化・廃園、文楽協会への補助金の減額(2014年度から約730万円減)、市音楽団の民営化(2014年)が行われた(取組と成果(計画別)、nippon.com、Wikipedia Osaka Shion Wind Orchestra(二次資料))。

企業側では、随意契約の大幅な縮小と外郭団体の整理が受注の構造を変えた。削った財源は、塾代助成(2012年に西成区で試行し、2024年10月に所得制限を撤廃)などの子育て・教育施策に振り向けた(こども青少年局資料)。

現在、財調は2024年度末2,869億円(決算)、2025年度末3,099億円(決算見込みの速報値)で、標準財政規模比は30%を超える。実質公債費比率は2025年度0.0%で、将来負担比率は充当可能な財源が将来負担額を上回るため算定されない(R7決算見込速報、R7健全化判断比率)。

それでも市の収支概算(2025年2月版、グラフからの読み取り)は、2025〜2034年度に毎年41〜353億円の不足を見込んでいる。主因は扶助費(2025年度は一般会計で7,598億円の見込み、うち生活保護2,681億円)と給与改定である(大阪市IR資料 R7)。2025年度の市税は8,967億円(決算見込み)で過去最高だった。

解釈基金の積み上がりには、改革の効果に加えて税収増の寄与が大きい。2026年度の人件費予算は前年度比6.6%増で、人件費を抑える局面は終わっている(令和8年度人件費予算)。

7堺:本当の危機は2021年で、高齢者向けの削減は議会で2度否決された

堺市は2006年4月に政令市へ移行した。2007・2008年度末の財調は0だったが、特定目的基金を357.4億円持っており、2009年度末から財調への積立てを始めた(2009年度末12.9億円、2010年度末17.9億円)(浜松市 H19、浜松市 H21、浜松市 H22)。

2007年度時点で危機だったことを示す一次資料はない。本当の危機は2016年度以降の構造的な収支不足だった。市の広報は原因を、収支見通しを改訂しないまま「市独自の住民サービスを拡充し、新しい公共施設を次々と整備した」と説明している。

2020年2月の見通しでは、基金(減債基金の満期一括償還分などを除く)は2020年度の298億円から2026年度に16.2億円まで減り、2027年度にはマイナスになるとされた(広報さかい 2021年3月号、堺市 中長期見通し)。経常収支比率は2019年度100.7%、2020年度100.8%だった(財政危機脱却プラン(案))。

永藤英機市長は2021年2月8日に「財政危機宣言」を出し、2021年度の想定収支不足135億円を当初予算で88億円に圧縮した(堺市 財政危機宣言)。2021年10月の財政危機脱却プラン(2021〜2030年度)は2030年度の効果額を33.2億円とし、2023年1月に45.9億円へ上方修正した(収入確保12.8億円、公共投資11.9億円、人件費等10.8億円など)(脱却プラン(案)、持続可能な財政運営に向けた取組 2023年1月)。

主な施策は次のとおりである。住民票などの窓口手数料を200円から300円へ、放置自転車の撤去手数料を1,500円から3,000円へ引き上げた。ハード事業の総事業費を2割程度縮減し、日高少年自然の家を廃止した。

職員数は2021年度比で4%程度の削減を目標にした(教職員・消防を除く。実績は未確認)。時間外勤務は2019年度比で20%縮減とした。65歳以上が市内の路線バスに1乗車100円で乗れる「おでかけ応援制度」については、対象を70歳以上に引き上げる条例案が2021年11月に否決された。

段階実施に改めた修正案(2022年2月)も否決され、2023年1月の改訂でプランから外された(堺市議会の動き、庁議資料 2022年2月)。2020年9月には阪堺線への支援(10年で50億円)を打ち切り、同年10月に運賃が210円から230円に上がった(Wikipedia 永藤英機(二次資料))。

市は2023年1月、「基金が枯渇し予算編成が困難となるような危機的な財政状況は回避された」として宣言を解除した。財調は2025年度末に301億円(決算見込み)となり、基金活用指針の目標「300億円程度」(年度間の財源調整に約200億円、大規模災害への備えに約100億円)に届いた(R7決算見込、基金活用指針)。

ただし2020・2021年度には、国費・府費の返還見込み分(20億円、68.7億円)を一時的に積み立てており、回復には外部要因の寄与が大きい(R2決算概要)。経常収支比率は2025年度も98.5%と高い。2026年2月の見通しは2035年度に80.9億円の不足を見込み、扶助費は2027年度の1,793億円から2035年度に2,230億円へ増えるとしている(財政収支見通し 2026年2月)。

解釈堺の改革規模は年約46億円で、一般会計(約4,800億円)の約1%にとどまる。議会を通ったのは施設・手数料・ハード事業といった目立ちにくい項目で、高齢者の移動支援のように対象者がはっきりした見直しは、二度の否決で頓挫した。

8京都:財調ゼロの裏で償還基金を642億円流用し、敬老乗車証で痛みを高齢者に寄せた

京都市の財調は、2016年度末に残額8億円を全額取り崩してゼロになった。2018年度末の36億円(実質17億円)を挟み、2019・2020年度末は「政令市で唯一残高が0円」だった(平成28年度決算概況、平成30年度参考データ集、令和2年度参考データ集)。

二次資料は2000年度前後にもほぼ枯渇していたと報じているが、年度別の数値は未確認である。財調がゼロの間、市は市債の満期一括償還に備える公債償還基金を、本来の計画を超えて取り崩して赤字を埋めた。この「計画外取崩し」の累計(市の呼称は「過去負債」)は、2012年度297億円から2020年度末に642億円へ膨らんだ(令和3年度参考データ集、行財政改革計画 総括 参考資料)。

計画外取崩しに行政改革推進債・調整債の発行を加えた「特別の財源対策」は、2020年度に169億円だった(令和5年度参考データ集)。

市の公式分析は原因を四つ挙げる。地下鉄東西線の建設費がバブル期と重なって高騰し、一般会計が市債で支え続けたこと。国の基準を上回る独自施策の上乗せが223億円あったこと。

社会福祉関連経費の一般財源が2011〜2021年度で約250億円増えたこと。そして職員が人口換算で他都市より約500人多く、人件費が2019年度決算で約171億円多かったことである(委託料は逆に約125億円少ない)(行財政改革計画(案))。これにコロナが重なり、2021年度予算の財源不足236億円のうち123億円がコロナの影響だった。

門川大作市長は2021年の年頭訓示で「このままでは『財政再生団体』となり」と警告した。市の試算は、対策をとらなければ公債償還基金が2024年度に枯渇し、2025年度に900億円以上の累積赤字が出るというものだった(年頭訓示、計画(案)概要)。「寺社や大学が多く固定資産税が少ないから苦しい」という通説には反論がある。

元市議の村山祥栄氏は、少ない収入は交付税で補塡されるので主因ではないとし、森裕之氏(立命館大学)も、歳入より歳出側(人件費・公債費)の問題が大きいとしている(プレジデント 村山、森 2024)。

行財政改革計画2021-2025(2021年8月)は、5年間の財源不足2,800億円に対し、歳入増・歳出削減で約1,630億円を確保するとした(資料内に1,644億円とする記述もあり、一致しない)。必達目標は、公債償還基金を2025年度末に1,000億円以上にすることだった(推進本部会議資料)。

職員については、必要な増員120人を確保したうえで670人を削減し、差し引き550人以上の純減を計画した。2021〜2024年度に555人(市長部局等344人、消防局150人、教育委員会61人)を削減し、1年前倒しで達成した。他都市との人件費の差は、2019年度の171億円から2023年度の83億円に縮まった(総括別紙)。この555人の会計区分は明記されておらず、交通局・水道局は内訳にない。

最も大きな市民負担は敬老乗車証の見直しだった。交付開始年齢を2022年10月から10年かけて70歳から75歳に引き上げ、年額の負担金を最大15,000円から最大45,000円(所得400〜700万円未満の層)に上げ、所得700万円以上を対象外にした(敬老乗車証FAQ、京都市チラシ)。

2022年5月には、実施の中止・撤回を求める陳情が少なくとも46件出された(受理番号2871〜2907の37件、3153〜3161の9件)(陳情2871-2907、陳情3153-3161)。補助金は2021年度予算の485件・164億円を総点検し、56件を終了、私立高校教育奨励補助金を休止した(総括別紙)。

一方、保育料は2023年度に据え置かれ、2026年度には民間保育園の1歳児加配が拡充されている。保育分野での大規模な削減は確認できない(1歳児加配の拡充)。企業側の主な負担は宿泊税である。

2026年3月1日から5区分・最高1泊1万円に引き上げ、想定税収は年約126億円(2023年度は52億円)。事業者が受け取る特別徴収補助金の率は3%から3.5%に上げた(Impress Watch、トラベルボイス)。投資的経費の一般財源は年170億円以下に抑えている。

特別の財源対策は2022年度決算からゼロが4年続いている。将来負担比率は2019年度の191.1%(政令市で最悪)から2025年度は114.0%に下がり、実質公債費比率は12.2%(2025年度)、市税は2025年度3,411億円で過去最高である(R7決算概況、健全化判断比率審査意見)。

2021年度に一般会計から公債償還基金へ187億円を一括で返し、以後は年35億円ずつ返済して、過去負債は2026年度9月補正後に365億円になった(令和8年度9月補正予算の概要)。

解釈京都の回復は、改革(職員555人減、人件費の他都市との差の半減)に加え、2021〜2025年度に約392億円増えた市税と、交付税の上振れに支えられた。対策なしで毎年500〜610億円とされた不足が2022年度に早くも均衡へ転じたことは、試算自体が保守的だったことも示している。

森氏は、観光主導の財政再建が地価の高騰を招き、25〜39歳を中心に年約2,000人の転出超過を生んでいると批判している(森 2024)。

9他の事例は、危機が「過大な債務」「外的ショック」「隠れ債務」の三型で起きることを示す

事例 時期 危機の指標 主な施策 職員 市民の痛み 結果・現在
千葉市 2009年10月に宣言、2017年9月に解除 実質公債費比率21.4%(2010年度、早期健全化基準は25%)、財調7億円(2008年度末) 市債の計画的な削減(建設事業債を4年で800億円)、モノレール延伸の凍結、資産売却、受益者負担 普通会計の定員226人減(2010→2013年) 難病疾患見舞金・健康増進センターなどの廃止、家庭ごみの有料化(2014年、1ℓ当たり0.8円) 実質公債費比率10.1%(2025年度)。第3期の効果115億円のうち約87%が歳入の確保
新潟市 2018〜2021年度 主要3基金の合計33億円(2017年度末の見込み) 集中改革(232事業、3年で20.6億円) 正職員を10年で352人減(計画) 紙おむつ支給1.9億円減、障がい者交通費助成1.4億円減(3年間) 主要3基金は2029年度46億円の見込みで、薄いまま
北九州市 1960年代から長期。2024〜2026年度が集中変革期間 財源調整用基金344億円(2024年度、前年度比32億円減) 約3,000の事務事業の棚卸し、次世代投資枠(2024年度当初111億円) 2,870人純減(1996→2013年) - 施設の更新費は年266億円で、予算の目安177億円を上回る
相模原市 2021年4月にプラン策定 2021〜2027年度の歳出超過見込み816億円 施設の廃止(市体育館、銀河アリーナ、連絡所5か所)、重度障害者等福祉手当の廃止 未確認 施設の廃止、障害者手当の廃止(相談支援は拡充) 財調は2017年度末62億円→2022年度末208億円と、逆に増えた
浜松市 2005年の合併以降 - 行革審の答申、区再編(7区→3区、2024年1月) 定数1,078人減(2004→2015年) 区再編(住民投票では「反対」が単独最多) 区再編の効果は年約7億円
神戸市 1995年の震災以降 市債残高(全会計)約3兆2,373億円(2002年度) 約20年続く行財政改革 7,190人(1996→2015年度、約3分の1) 未確認 2024年度の実質公債費比率4.9%、将来負担比率64.5%
夕張市 2006年6月に破綻を表明 解消すべき赤字353億円(標準財政規模は45億円) 再生振替特例債321.99億円を17年で償還 263人→97人(2006.3→2016.3)。資料により定義が異なる 市民税・固定資産税の超過課税、下水道料金約1.66倍、小学校7校→1校 2026年度末に完済の見込み。人口は13,268人→5,791人
北海道庁 2004年以降 収支不足1,730億円(2004年度、旧法の転落ライン約656億円の2.6倍) 財政立て直しプラン、職員を10年で30%削減する方針、給与の独自縮減 知事部局など - 2026年度の収支不足460億円、実質公債費比率20.9%(都道府県で最悪)
赤平市 2006〜2009年度 連結実質赤字比率68.76%(2007年度) 市民参加型の「スクラムプラン」、給与を最大23.5%カット、病院改革 604人→291人(1998→2011年度) 水道・下水道料金の引上げ、サービスの縮小 連結実質赤字比率13.10%(2008年度)
デトロイト 2013年7月に破産を申請 債務約180億ドル 債務を70億ドル超削減、年金4.5%カット、グランド・バーゲン8.16億ドル - 年金の削減、水道料金の重い負担 2014年以降は黒字予算、人口は120万人→68.8万人
バーミンガム市 2023年9月にs114通知 同一賃金訴訟の債務6.5〜7.6億ポンド 地方税を2年で約21%引上げ、3億ポンドの削減 最大600人削減 ごみ収集を隔週に、街灯の減光 2026年、近年初めて例外的財政支援(EFS)なしで均衡予算

政令市の六例:千葉は債務、神戸は震災、新潟・北九州・相模原は基金と施設

千葉市は1992年の政令市移行をきっかけに、税収を大きく上回る予算を組み続けた。市債残高(全会計)は1988年度の2,256億円から2008年度の1兆809億円に膨らんだ(千葉市FAQ、千葉市長プレゼン資料)。実質公債費比率は2010年度に21.4%と早期健全化基準25%に迫り、財調は1993年度の187億円から2008年度の7億円まで減った。

一般会計が基金から借りた「借入金」は、2015年度末でも297億円残っていた(財政健全化資料、財政の概要 2014年5月、財政の概要 2017年5月)。回復の主軸は、建設事業債を4年で800億円減らす債務の計画的な削減と、歳入の確保だった。第3期プランの効果115.0億円のうち、99.9億円(約87%)が歳入の確保である。

実質公債費比率は2025年度に10.1%まで下がった(市長会見資料 2026年8月)。2014年2月の家庭ごみ有料化(1ℓ当たり0.8円)は焼却ごみを6.5%減らし、北谷津清掃工場の操業終了(2017年3月)につながった(ごみ有料化 導入3年目の結果)。

千葉市は宣言の際、FAQで「市民のニーズ(要望)にこたえられなくなることも出てきます」と痛みを明記した(千葉市FAQ)。

新潟市は、健全化法の指標が悪化したわけではない。財源調整に使える主要3基金(財調・都市整備基金・市債管理基金)が、2016年度末の56億円から2017年度末に33億円(見込み)まで減るという、資金繰りの危機だった(新潟市長会見 2018年2月)。市は、同規模の政令市より職員が約440〜470人多く、市民1人当たりの建物保有面積が政令市最大(平均の約1.3倍)であることを構造的な要因に挙げた。

集中改革(2019〜2021年度)の効果は3年で20.6億円(うち人件費11.0億円)、正職員は10年で352人減らす計画である。紙おむつ支給を1.9億円、障がい者交通費助成を1.4億円削る一方、就学援助は0.6億円拡充する選別型だった(集中改革プラン 素案概要、成案)。

2025年の見通しでも、主要3基金は2029年度に46億円と薄いままである(新潟市 財政見通し2025)。

北九州市は1996〜2013年に職員を2,870人(約25%)純減させた。ただし減員4,735人のうち1,690人は、委託化・嘱託化・IT化による置き換えだった(北九州市 職員数の削減)。武内和久市長の市政変革(集中変革期間は2024〜2026年度)は、約3,000の事務事業を棚卸しして2024年度当初に111億円の「次世代投資枠」を生み出す、「削って投資に回す」型である(市政変革推進プラン(案))。

市民1人当たりの公共施設保有量は5.3㎡で政令市1位。今後30年の更新・改修費は年266億円で、予算の目安である年177億円を上回る(アセット変革方針(素案))。相模原市は2021年4月のプランで、2021〜2027年度に816億円の歳出超過を見込んだ。

市体育館や銀河アリーナ、連絡所5か所を廃止し、重度障害者等福祉手当を廃止する代わりに相談支援を拡充した。ところが財調は2017年度末の62億円から2022年度末の208億円へむしろ増え、第2期(2024〜2027年度)の歳出超過見込みは280億円に下方修正された(相模原市 プラン概要版、第2期本文)。

浜松市は2019年4月の区再編の住民投票で、「3区案にも再編にも反対」が158,629票で単独最多だった。それでも議会は再編を決め、2024年1月に7区を3区にしたが、効果は年約7億円にとどまる(政治山、浜松市 区再編の目的)。神戸市は震災復興に約2.9兆円を投じた。

職員は1995年の21,728人から2015年の14,538人へ7,190人(約3分の1)減り、外郭団体は64から34に減った。市債残高(全会計)は2002年度の約3兆2,373億円から2024年度末の約1兆9,866億円に下がった(行財政改革2020、神戸市IR資料 R7)。

北海道の四例:破綻の実像と、20年続けても効かない給与縮減

夕張市は、一時借入金で年度をまたいで赤字を繰り延べる「ジャンプ方式」で隠していた赤字が表に出て、2006年6月20日に破綻を表明した。債務保証などを含む負債総額は500億円で、標準財政規模45億円の10倍以上、解消すべき赤字は353億円だった(林正義 講義資料)。

再生振替特例債321.99億円は、2026年度末に完済する計画である(総務省 夕張市財政再生計画 R6実施状況)。代償として、市民には全国最高水準の負担が長く課された。個人市民税の均等割は3,000円から3,500円へ、所得割は6%から6.5%へ、固定資産税は1.4%から1.45%へ上がった。

下水道使用料は10㎥当たり1,470円から2,440円へ、小学校は7校から1校、中学校は4校から1校になった。職員数は資料によって定義が違い、「263人→97人(2006年3月→2016年3月)」「269人→103人」「309人→124人(目標)」と数字が食い違う(自由法曹団、ビジネス+IT)。

人口は2006年3月の13,268人から2025年11月末の5,791人になった(北海道新聞 2025年12月)。北海道庁は2004年時点で、収支不足(1,730億円)が旧法の赤字再建団体ラインの2.6倍に達した。職員の30%削減と給与の独自縮減を長く続けたが、2026年度も収支不足は460億円、実質公債費比率は20.9%で都道府県最悪のままである(道財政立て直しプラン、北海道新聞 社説 2026年2月)。

赤平市は、市民参加型の再建計画と最大23.5%の給与カット、公立病院特例債を使った病院改革によって、連結実質赤字比率を2007年度の68.76%から2008年度の13.10%へ下げた(柏木恵 赤平市の事例)。北見市は2028〜2030年度に計23.3億円の収支不足を見込み、年最大30億円の予算縮減を続けている(北海道新聞 2026年2月)。

海外と全国:偶発債務とIT投資、正規職員削減の裏の非正規化

デトロイトは2013年7月18日に、約180億ドルの債務を抱えて米国史上最大の自治体破産を申請した。債務は70億ドル超削減されたが、退職者年金は4.5%カットされ、人口は1980年の120万人から68.8万人に減っている(Michigan Advance、Christian Science Monitor)。

英国では、事実上の破産宣言にあたる「セクション114通知」が2018年以降に増えた。政府の例外的財政支援(EFS)を受ける自治体は、2026-27年度に35団体・約15億ポンドに達する(Institute for Government、Local Government Lawyer)。

バーミンガム市の引き金は、景気ではなかった。同一賃金訴訟の債務6.5〜7.6億ポンドと、基幹システム(Oracle)の予算が4,000万ポンドから1.31億ポンドへ膨らんだことである(バーミンガム市 声明、The Conversation)。国内全体では、地方公務員は1994年の328万人から2018年の274万人へ約55万人(約17%)減った(総務省 定員管理について)。

その一方で、臨時・非常勤職員は2023年度に74.3万人と増え続けている(総務省 会計年度任用職員調査)。経済産業研究所(RIETI)の分析は、正規職員の削減分が臨時職員への振替に向かい、サービスの「低廉化」が進んだと評価している(RIETI 喜多見)。

解釈事例を通して見ると、危機の型は三つに分かれる。過大な投資・起債(千葉・夕張・神戸・名古屋)、外的ショック(神戸の震災、新潟・相模原のコロナや災害)、隠れ債務・偶発債務(夕張のジャンプ方式、バーミンガムの訴訟とIT)である。回復の主因は、歳出の一律削減ではなかった。

債務の計画的な圧縮と歳入の確保(千葉)、そして景気回復(大阪・京都・相模原)である。もう一点、危機の根拠とされた見通しは、悲観に外れることが多かった。相模原の歳出超過816億円、京都の毎年500〜610億円の不足、堺の基金枯渇見通しは、いずれも実績より厳しすぎた。

10札幌の「2031年度枯渇」は活用可能基金の話で、財調単体は2026年度末に119億円へ

予測の中身と前提

2031年度枯渇予測の出典は、札幌市「札幌市の今後の財政運営について(今後10年間の財政推計)」(2026年1月、令和8年度予算案と同時に公表)である。枯渇するとされたのは、財調・まちづくり推進基金(現金分)・土地開発基金(現金分)を合わせた「活用可能基金」で、令和13年度(2031年度)に尽きる見込みとされた。

枯渇後については、減債基金を収支不足に充てたと仮定して試算している(財政推計、行政評価委員会 資料2)。推計期間は一般会計の2026〜2035年度である。主な前提は四つある。

2027年度以降の物価上昇・人件費単価の上昇と、景気による税収の変動は織り込まない。職員費は2026年度予算と同じ水準が続く。公債費の利子は2026年度予算の新規発行利率(10年債で3.54%)で計算する。

扶助費は「今後大きく変わらない見込み」とする。2026年度予算の段階ですでに210億円の収支不足(=基金で埋める額)がある(令和8年度予算の概要)。10年後の2035年度に収支不足が591億円になるという数字は北海道新聞の見出しによるもので(北海道新聞 2026年1月29日)、一次資料のグラフの中の数値は確認できていない。

予測は短い間に動いている。2025年10月7日の決算特別委員会で財政部長は、3基金の現金部分が、2024年度末は想定1,178億円に対し決算1,108億円(70億円の悪化)、2025年度末は想定1,074億円に対し見込み891億円(183億円の悪化)と答弁した。

そのうえで、「このままのペース」なら3基金が「8年程度で枯渇する可能性」を示した(決算特別委員会記録 2025年10月7日)。2026年1月の推計で枯渇年度は令和13年度に前倒しされた。2026年10月公表の令和9年度予算編成方針の概要でも令和13年度のままで、2025年度決算を反映した2026年度末の活用可能基金は865億円の見込みとされた。

2027年度末の残高については、アクションプランの想定を「昨年度は、132億円下回る見込みであったが、40億円好転し」92億円下回る見込みとしている(令和9年度予算編成方針の概要)。ただし令和8年度予算概要は、2027年度末の基金残高を612億円(アクションプランの想定789億円、差177億円)としており、92億円という数字と食い違う。基金の範囲や時点の違いと考えられるが、確認できていない。

解釈865億円から財調の119億円を引いた約746億円が、まちづくり推進基金・土地開発基金の現金分にあたる計算になる(内訳は一次資料で未確認)。もう一つ重要なのは、札幌の見通しがこの2年、実績が想定より悪い方向に外れてきたことである。悲観に外れた相模原・京都・堺とは逆向きである。

財調単体は2年で約100億円減り、市が守る100億円の下限に迫る

財調の取崩し額(決算)は、2021年度57億円、2022年度32億円、2023年度25億円、2024年度59億円、2025年度は過去最大の81億円だった。市公表ベースの年度末残高は、2023年度320億円、2024年度283億円、2025年度224億円である。

2026年度に当初予算どおり105億円を取り崩すと、2026年度末は119億円になり、市は「アクションプラン2023で最低限維持するとした100億円を下回る可能性もあります」と書いている(令和7年度決算の概要)。北海道新聞は、2025年度の取崩しがそれまでの過去最大だった1992年の記録を上回ったと報じた(北海道新聞 2026年9月11日)。

2026年度の取崩し予算は、決算概要では105億円、北海道新聞では104億円とされる。予算編成の時点では2026年度末の残高は105億円と見込まれており、市財政局は「大雪や災害が重なれば底を突く可能性もある」としていた(北海道新聞 2026年1月29日、同 2026年5月6日)。

100億円の下限の根拠は大雪・災害への備えで、2021年度の大雪では補正予算89億円(過去最大)を組んだ(決算特別委員会記録)。2025年度も1月下旬の大雪で、初めて生活道路の緊急排雪を行うため73億円を追加補正し、除排雪費は過去最大の357億8,300万円になった(北海道新聞 2026年2月12日、同 2026年4月14日)。

財調の取崩しを除いた実力の収支を示す実質単年度収支は、2024年度に△75.7億円で、道内179市町村のなかで赤字額が最も大きかった(R6決算カード(札幌市掲載)、北海道新聞 2026年3月10日)。普通会計の減債基金は、2016年度の14.4億円から2024年度の0.5億円まで減っている(H30財政状況資料集、R6財政状況資料集)。

解釈2026年度末見込みの119億円は、2024年度の標準財政規模5,648億円の約2.1%にあたり(計算値)、比較9市のなかでは名古屋(2.3%)・新潟(2.1%)並みの「薄い」水準に落ちる。

借金は軽く人件費は最少、稼ぐ力は弱く福祉と雪が重い

指標(2024年度決算、普通会計) 札幌 名古屋 川崎 大阪 堺 京都 千葉 新潟 福岡
標準財政規模(億円) 5,648.4 6,971.9 4,192.0 9,112.1 2,412.9 4,268.3 2,704.2 2,450.8 4,705.1
財政力指数(3か年平均) 0.70 0.98 1.06 0.94 0.75 0.81 0.88 0.64 0.87
経常収支比率(%) 98.0 101.2 99.3 89.8 100.0 100.4 98.8 94.9 93.6
実質公債費比率(%) 3.2 6.4 8.4 0.1 5.0 12.0 10.4 12.4 7.7
将来負担比率(%) 22.2 84.2 111.4 算定なし 算定なし 132.0 120.1 121.7 58.8
財調(億円)/標準財政規模比(%) 260.7/4.62 160.9/2.31 58.6/1.40 2,869.5/31.49 273.2/11.32 185.0/4.34 99.4/3.67 50.3/2.05 366.2/7.78
減債基金(億円) 0.5 93.5 18.7 記載なし 28.6 27.2 19.2 20.9 209.4
地方交付税/歳入(%) 12.4 0.6 0.0 2.2 11.8 7.5 5.6 18.3 5.0
市民1人当たり市税(万円) 18.2 27.6 25.5 29.9 19.3 23.6 21.5 17.6 23.9
法人市民税/市税(%) 7.8 11.3 5.6 16.3 6.8 9.5 7.6 7.8 11.2
人件費/歳出(%) 14.2 19.4 20.2 15.6 19.9 17.2 19.7 21.5 14.2
扶助費/歳出(%) 33.8 29.6 31.2 36.0 35.5 26.7 28.3 23.3 27.0
市民1人当たり人件費(円) 89,504 123,954 106,973 115,871 115,523 121,777 106,070 128,321 98,402
人口千人当たり職員数(人) 10.05 12.41 10.85 12.14 12.19 12.40 10.86 12.52 10.40
ラスパイレス指数 99.2 98.8 100.2 99.0 100.4 101.5 100.5 98.4 101.2
高齢化率(%) 28.8 25.0 20.3 24.2 28.3 28.5 26.2 30.7 22.3

出典は決算カード2024年度(各道府県PDF、上掲)。高齢化率はzaisei-karteによる。1人当たりの指標は、住民基本台帳人口(2025年1月1日)で割った計算値である。

職員数は決算カードの職員数欄(教育公務員を含み、公営企業を含まない)。札幌の財調比率4.62%、人口千人当たり職員数10.05人、1人当たり人件費89,504円は、札幌市 R6財政状況資料集の掲載値と一致する。政令市の平均値は資料によって食い違う。

財政力指数は0.83(浜松市資料)、0.82(zaisei-karte)、0.836(札幌市の決算概要)。将来負担比率は66.2%(浜松市資料)、88.2%(zaisei-karte、算定15団体)、59.1%(札幌市財政状況資料集の類似団体平均)と大きく割れている。

札幌の特徴ははっきりしている。借金の指標は政令市でトップクラスに良い。実質公債費比率3.2%は20市中3位、将来負担比率22.2%は算定15市中2位で、2025年度は3.5%・17.6%だった(zaisei-karte 札幌、令和7年度決算の概要)。

人件費も最も軽い。人口千人当たり職員数は類似団体20市で最少(平均11.47人)、市民1人当たり人件費は類似団体平均112,291円より20.3%少ない。一般行政職の平均給与月額は395,460円で、指定都市平均445,629円を約5万円下回る(札幌市 給与・定員管理等 R7)。

一方で、稼ぐ力は弱い。財政力指数は20市中17位で、2021年度0.724から2025年度0.691へと毎年下がっている。市税は2025年度に過去最高の3,859億円になったが、法人市民税は301億円で市税の7.8%にすぎない(令和7年度決算の概要)。

歳出では、扶助費が歳出の3分の1を占め、市民1人当たりの扶助費は大阪に次いで多い。維持補修費は人口1人当たりで類似団体平均の約2.1倍あり、主因は「類似団体ではほとんど行われてない除雪費」である(R6財政状況資料集)。経常収支比率は2015年度の91.6%から2024年度の98.0%へ6.4ポイント悪化した(zaisei-karte 札幌)。

解釈将来負担比率の大幅な改善とは逆向きの動きで、「借金は減ったが、毎年の固定費が膨らんだ」構図を示している。

歳出を押し上げるのは扶助費・建設事業・公債費・賃上げ・除排雪

2023年度から2026年度にかけて、一般財源の負担は扶助費で約200億円、公債費で約140億円、職員費で約140億円増えた。歳出の一般財源の約90%が義務的・準義務的な経費である(行政評価委員会 資料2)。扶助費(一般会計決算)は、2014年度の2,673億円から2025年度の4,247億円へ約1.6倍になった(札幌市財政統計 2026年4月)。

市の裁量が大きいのは建設事業である。市の予算編成方針が示す「建設事業」は、2025年度の1,454億円から2026年度の1,833億円へ約1.3倍になった。一般会計当初予算の投資的経費でも、1,353億円から1,566億円に増えている(令和9年度予算編成方針の概要、財政統計)。

両者の範囲の違いは資料上確認できていない。北海道新聞によれば、上田文雄前市長は工事を抑えて建設事業費を年700億円前後に保ったが、秋元克広市長は就任直後の計画で年1千億円の確保を明記した(北海道新聞 2026年5月12日)。新MICE施設の事業費は、2018年の基本計画の280億円が2019年に341億円、2025年9月に592億円へ膨らんだ。

土地取得費は105億円の見込みで、運営収支は年2.2億円の黒字、使用年数は80年という前提である。アクセスサッポロの後継施設(222億円)と中央区役所の建て替えも同時に進む(北海道新聞 社説 2025年10月26日、同 2026年6月13日)。公債費の当初予算は2025年度925億円から2026年度1,076億円へ16%増えた。

除排雪費は2014年の181億円から2024年に278億円となり、2026年度の当初予算は当初予算として過去最高の286.1億円である(持続可能な雪対策の概要、北海道新聞 2026年1月28日)。除雪オペレーターの半数は50歳以上で、札幌圏の建設業関連の有効求人倍率は約4倍(2023年度)である(除排雪手法小委員会資料)。

公共施設は延床面積約585万㎡の6割超が築30年以上である。市の管理基本方針は、建設事業費を自然体の年平均1,643億円から、取組の実施後に年平均1,148億円へ抑えられると試算している。下水道管路のうち50年を過ぎたものは現在17%だが、10年後には60%になる(管理基本方針 概要版)。

人口は2020年の197万人から2060年に159万人へ減る見込みで、合計特殊出生率は2023年に0.96だった(第3期さっぽろ未来創生プラン)。

破綻への道は二つあり、どちらも2031年度より後に来る

市の推計は、対策をとらなかった場合、実質公債費比率が2034年度に18%を超えて起債に許可が必要な団体に、2037年度に25%を超えて財政健全化団体(早期健全化基準)に、2043年度に35%を超えて財政再生団体になる「可能性」を示した(財政推計)。建設事業の実質的な負担額は、2039年度に1,279億円(2026年度比110.8%増)になる。

もう一つは実質赤字の経路である。基金が尽きた後に収支不足を埋められなければ、赤字そのものが積み上がる。札幌に適用される実質赤字比率の早期健全化基準は11.25%(令和7年度決算の概要)、市町村の財政再生基準は20%である(総務省)。

解釈2024年度の標準財政規模5,648億円に当てはめると、実質赤字は約635億円で早期健全化、約1,130億円で財政再生の水準になる(計算値)。北海道新聞の見出しにある2035年度の収支不足591億円が1年埋まらないだけで、早期健全化の目安に近い規模になる。

ただし将来負担比率17.6%は早期健全化基準400%から遠く、「今すぐ破綻」という議論は指標上あたらない。問題は、基金に頼る単年度の赤字構造と、建設事業の膨張による将来の公債費増である。

11他都市の処方箋は、札幌では投資と施設に効き、人件費には効きにくい

以下の判定は、他都市の数字と札幌の条件を突き合わせた推論である。

他都市の手法 先行事例の数字 札幌の条件(事実) 判定(推論)
職員の大量純減 名古屋6,583人、川崎2,733人、大阪8,623人、神戸7,190人 人口千人当たり職員数10.05人で政令市最少。
1991→2015年に約3,800人削減済み。
全会計の職員は2020→2025年に465人増
効きにくい。削り代が小さく、福祉・除雪・技術職の需要は増えている
給与の独自カット 夕張は平均20〜30%減、赤平は最大23.5%、大阪は3〜5% 一般行政職の平均給与月額は指定都市平均より約5万円低い。ラスパイレス指数99.2 限定的。一律5%で年約88億円の計算になるが、採用難のリスクが大きい。特別職・管理職の象徴的な措置にとどめる
投資的経費の大幅抑制 名古屋は35.7%(564億円)削減、千葉は建設事業債を4年で800億円削減、川崎は地下鉄を延期 建設事業は2025年度1,454億円→2026年度1,833億円。推計では建設債が財政再生リスクの主因 最も効く。ただし更新投資とは分けて扱う
公共施設の総量削減 北九州は1人当たり5.3㎡、相模原は施設を廃止、千葉は清掃工場を1つ削減 約585万㎡、6割超が築30年以上。市の試算で年平均495億円の効果。1人当たり約3.0㎡(計算値) 効く(長期)。1人当たり面積は北九州より小さく、論点は総量より更新費
減債基金からの借入れ・計画外取崩し 京都642億円、川崎537億円、名古屋453億円(2026年度) 普通会計の減債基金は0.5億円。推計は枯渇後の減債基金充当を仮定しているが、その範囲は未確認 取るべきでない。使える量も未確認
敬老パスなどの受益者負担 名古屋の負担金収入は年約10億円(事業費約130億円)。京都に陳情46件、堺は2度否決 札幌は2026年4月に75歳への引上げを実施済み 追加の効果は小さい
外郭団体・三セクの整理 大阪146→14団体、名古屋49→34団体、浜松は債務保証354億円を問題視 札幌の外郭団体数・債務保証は未確認 要調査
公営交通の民営化 大阪(2018年) 札幌の高速電車・軌道事業は2025年度に黒字 財調の問題には直結しない
宿泊税などの観光課税 京都は年約126億円を想定(使途は観光・都市基盤) 札幌の宿泊税の状況は本調査で未確認 一般財源の穴埋めには直結しにくい
市民税減税 名古屋は年約100億円の減収 財政力指数0.70、交付税依存12.4% 取るべきでない
区の再編 浜松は年約7億円、住民投票では反対が最多 10区 効果が小さく政治的コストが大きい
事業の棚卸し・選別 新潟は232事業で3年20.6億円、北九州は約3,000事業で次世代投資枠111億円 2026年度予算で事務経費を15%削減済み 必要だが、単独では足りない
財調ルールの明文化 堺は300億円(財源調整200億円+災害100億円)、大阪は「補てん財源に依存しない収支均衡」 100億円の下限。大雪補正は2021年度89億円、2025年度73億円 効く
危機宣言・見通しの公開 千葉・川崎・京都・堺 推計は公表済み。ただし過去2年は想定より実績が悪化 効く。予測精度の検証と併せて行う

解釈人件費については、反対の立場も検討しておく。札幌でも給与を一律5%下げれば、2025年度人件費1,767億円から年約88億円が浮く計算になり(計算値。教職員給与を含む総額ベースで、一般財源の効果はこれより小さく未試算)、2026年度の財調取崩し105億円に近い。

だが札幌の1人当たり人件費は、類似団体平均並みだった場合より年約446億円少ない計算で(2024年度の差額22,787円×人口、計算値)、すでに最も切り詰められている。夕張・赤平が大幅な給与カットに踏み切ったのは、健全化基準を超える実際の破綻・準破綻の局面だった。

将来負担比率17.6%の段階で使う手段ではない。さらに北海道庁は約20年給与を縮減し続けても、実質公債費比率が都道府県最悪のままである。人件費の圧縮だけでは、過去の投資が生んだ公債費の構造は変わらない。

12札幌が取るべき改革は、投資の総量管理と財調ルールから始まる

ここからは他都市の事例にもとづく推論で、札幌市について効果を検証したものではない。施策は優先度の高い順に並べた。

施策 想定効果と根拠 リスク 市民への影響 企業への影響 先行事例
①建設事業の総量上限と大型事業の再検証(MICE 592億円、アクセスサッポロ後継222億円など) 予算編成方針の「建設事業」を2025年度水準(1,454億円)に戻せば、2026年度(1,833億円)比で事業費ベース年約379億円減(計算値。一般財源効果は財源の内訳が未確認のため未試算)。
市推計で財政再生リスクの主因となっている建設債の増加を直接抑える
国費の返還や計画変更の費用。MICEの経済波及効果(市試算で年492億円)を失うとの反論 新施設の完成が遅れる。直接の負担増はない 地元建設業の受注が減る。除雪の担い手と重なるため、発注の平準化と複数年の見通しの提示が必要(推論) 名古屋:投資的経費を2001年度予算比35.7%削減。
千葉:建設事業債を4年で800億円削減、モノレール延伸を凍結。
川崎:総事業費約5,226億円の地下鉄を延期し、のち廃止
②公共施設の総量削減と更新費の差の公表 市の管理基本方針で建設事業費を年平均495億円抑える試算(1,643億円→1,148億円)。
2026年度に作る施設カルテを公開して判断材料にする
合意形成に時間がかかり、短期の効果は小さい(新潟の施設最適化は3年で0.7億円) 身近な施設の廃止・移転・複合化 指定管理・維持管理の受注減。跡地活用やPPPの事業機会 北九州:更新費年266億円と予算目安177億円の差を公表。
相模原:市体育館などを廃止。
千葉:清掃工場の操業を終了。
京都:約4万㎡を削減
③財調の積立ルールと下限の明文化 決算剰余金の積立を、法令上の下限である2分の1(名古屋市も「実質収支見込額の2分の1を下らない額」を編入、名古屋市 R7収支見込み)から全額に上げれば、2025年度決算では実質収支40億円のうち積立20億円が約40億円になる(計算値で約20億円増)。
下限は「大雪1回分(過去最大の補正89億円)+災害」で根拠を示す
年度途中の補正予算の財源が細る 直接の影響なし 直接の影響なし 堺:財調300億円を指針で定め、経常的な新規事業は基金に頼らない。
大阪:補てん財源に依存しない通常収支の均衡を原則にした
④国の基準を超える独自施策(上乗せ)の棚卸しと公開 札幌の上乗せ総額は未確認。京都は223億円を特定して見直しの対象にした 対象者の反発、議会での否決(堺) 対象者には給付減・負担増 小さい 京都:上乗せ223億円を公表。
相模原:現金給付を相談支援に切り替え、差し引き一般財源23.2億円減。
新潟:削減と拡充を組み合わせる選別型
⑤総人件費(正規+会計年度任用+委託)での管理と業務のデジタル化 定員の削減目標ではなく、総コストで管理する。
札幌の時間外縮減の効果は未試算(堺は2019年度比20%縮減で2.8億円、京都は35.8%縮減)
委託・非正規への付け替えで、見かけだけ減る。大型システム更改の費用が膨らむ 窓口や手続きの変化 IT・業務委託の事業者に機会。調達失敗のリスク 北九州:減員のうち1,690人分を委託化などで置換。
川崎:量的改革から質的改革へ。
バーミンガム:基幹システムの予算が4,000万→1.31億ポンド
⑥未利用資産の活用・売却(一時財源として区別する) 札幌の対象額は未確認。
芸術文化の館の跡地は約10年使われていない(さっぽろ市議会だより No.150)。
アセットライト経営研究会(2026年7月に初会合)の検討結果を使う(札幌市)。
売却益は基金に積み、恒常的な経費に充てない
安値での売却、将来の公共用地の不足 小さい 不動産・開発事業者に機会 大阪:未利用地を3年で479億円売却。相模原:6.9億円。千葉:余剰資産の売却
⑦除排雪の費用構造の見直しと国費の確保(水準は維持) 効果額は未試算。除排雪費は2014年181億円→2024年278億円、2025年度は補正後357.83億円 「水準の切り下げ」と受け取られる。新しい除排雪の制度を知る市民は約3割(北海道新聞 見出し) 排雪の手法・時期の変化 除雪事業者の経営の安定が前提(オペレーターの半数が50歳以上) 政令市に類例は乏しい。新潟の除雪対策の見直しは3年で0.2億円にとどまる
⑧財政情報の一元公開と推計の精度検証 財政効果はないが、合意形成のコストを下げる。
財調の二つの基準の差の説明、活用可能基金の基金別内訳、推計グラフの数値、過去の推計と実績の差を公開する
なし 判断材料が増える なし 千葉:宣言と同時にタウンミーティング・FAQで痛みを明記。相模原:見込みと実績の乖離。京都:過去負債を毎年公表

順序にも意味がある。

解釈2027年度予算は統一地方選前の骨格予算で、政策経費は原則計上されず、政策的な建設事業は2027年度以降の補正予算で検討するとされている(令和9年度予算編成方針の概要)。つまり選挙後の最初の補正予算と2028年度予算が、①(建設事業の上限とMICEの再検証)の実質的な決定点になる。

③と⑧は費用がかからず、新体制の初年度に条例や方針で固められる。②と④は施設カルテと上乗せの一覧ができてから、地区別・事業別に議会で審議する長期の作業になる。市立病院(2024年度の資金不足比率5.4%)の経営形態の見直しも、大阪(2014年に独法化)、京都(2011年に独法化)、赤平(病院改革で連結実質赤字比率を大幅に低下)の例から検討対象になる。

ただし効果額は未試算である。歳入面では、財政力指数0.70と法人市民税比率7.8%という税源の薄さが根本にある。川崎のキングスカイフロント(いすゞ自動車の工場跡地、2021年1月時点で予定を含め70機関が立地)のような産業誘致は(内閣府 事例集)、効果が出るまでに10年単位の時間がかかる。2031年度までの収支には間に合わないと見ておくべきである。

13札幌が取るべきでない改革は、償還基金の流用と一律の人件費削減である

施策 見かけの効果 問題(リスク) 市民への影響 企業への影響 先行事例
❶減債基金・償還基金からの借入れや計画外取崩しで収支を合わせる 単年度の収支均衡 償還財源を先食いし、見えない赤字が積み上がる。
札幌の推計自体が枯渇後の減債基金充当を仮定しているが、普通会計の減債基金は0.5億円で、充当できる範囲は未確認
返済の時期に増税・サービス削減が集中する 同左 京都:計画外取崩し累計642億円、完済は2038年度が目途。
川崎:537億円を借り、497億円が残る。
名古屋:2000年度に80億円、2026年度に453億円。
千葉:基金借入金297億円
❷職員数・給与の一律大幅削減 給与一律5%減で年約88億円(計算値) 札幌は職員数が政令市最少で給与も低い。採用難、除雪・土木・福祉の現場力の低下、委託・非正規への付け替え サービスの質と速さが落ちる 委託先の一部には機会 夕張:職員約6割減で慢性的な人手不足。
北海道庁:約20年の縮減でも指標は都道府県最悪。
全国:正規約55万人減の裏で臨時・非常勤74.3万人
❸市民税減税 家計の手取りが増える 個人市民税(2025年度1,601億円)の5%で年約80億円の減収(計算値)。
2026年度の財調取崩し105億円に近い規模
短期は負担減、長期はサービス削減 小さい 名古屋:5%減税で年約100億円の減収、財調は2026年度末36億円の見込み
❹資産売却益や基金を恒常的な新規事業に充てる 新規事業の財源を確保できる 一時財源が尽きた後に、恒常的な経費だけが残る 事業打ち切りのリスク 同左 堺の基金活用指針と大阪の通常収支の原則は、これを禁じている
❺更新投資・維持補修の一律先送り 投資的経費の短期的な削減 50年を過ぎた下水道管は現在17%から10年後に60%になる。更新が一時期に集中する 事故やサービス停止のリスク 突発的な発注で単価が上がる 相模原:投資的経費が政令市比で極めて低く、それが悪化要因に。北九州:更新費と予算の差が年約89億円(計算値)
❻対話のないまま高齢者・子育て施策を急に削る 数億〜数十億円 議会の否決や陳情で頓挫する。若い世代の流出 対象者に集中する 小さい 堺:高齢者バス割引の年齢引上げを2度否決。
京都:敬老乗車証に陳情46件、25〜39歳中心の転出超過(学識者の指摘)。
札幌:敬老パスの見直しで対話不足を新聞社説が指摘
❼除排雪の水準の大幅な切り下げ 年数十億円規模(未試算) 生活道路や物流の停滞。結局は緊急排雪の追加補正が必要になる 通行・通院・通学への支障 物流・商業への支障 2025年度に初めて生活道路の緊急排雪を行い、73億円を追加

❶は最も誘惑が大きく、最も見えにくい。

解釈名古屋・川崎・京都は、いずれもこの手段で「破綻せずに済んだ」。しかしその返済が、10〜20年後の予算を縛っている(名古屋は2026年度に再び借入れ、川崎は497億円が残り、京都は2038年度まで返済が続く)。札幌の推計が「枯渇後は減債基金を充当」と仮定していることは、この道が既定路線として織り込まれていることを意味する。

議会で問うべきなのは、その減債基金とは何か(普通会計の0.5億円か、公債会計などにある満期一括償還の積立金か)と、流用を禁じるルールを設けるかどうかである。❷については、札幌の職員数と給与水準がすでに政令市で最も低いことに加え、北九州の例が示すように、職員の純減は委託・非正規への置き換えと表裏一体である。

総人件費で測らなければ効果を過大に見せることになる。区の再編(浜松の効果は年約7億円)や公営交通の民営化(札幌の地下鉄は黒字)も、財調の問題に対しては的外れで、優先度は低い。

発信のうえで避けるべきことも一つある。危機を語るときに、数字の基準を混ぜないことである。「財調が2031年度にゼロ」は不正確で、2031年度に枯渇するとされるのは活用可能基金である。

財調単体については、2026年度末に119億円(市公表ベースの見込み)と言うのが正確である。他市と比べるときは決算カード(2024年度末260.7億円)を使う。

解釈千葉・相模原・京都・堺の例が示すように、危機をあおった見通しが外れると、改革そのものへの信頼が損なわれる(京都については、元市議の村山氏が、数値目標の下方修正の繰り返しを計画の信頼性の低さとして批判している。神戸新聞NEXT)。札幌の推計は、物価・賃金の上昇も、税収の上振れも織り込んでいない。この二つを「推計の前提」として必ず添えるべきである。

14未確認のまま残る論点

論点 現状 確認先
2000年度以前の各市の財調(決算カードの基準) 決算カードのWeb公開は2001年度分以降で、未取得 各市の「財政のあらまし」旧版、市議会資料
札幌の2025年度末の財調(決算カードの基準) 2025年度の決算カードは画像PDFで読み取れず、財政状況資料集は未公表。市公表値224億円との差の定義も未確認 札幌市財政局、2025年度の財政状況資料集
活用可能基金の基金別内訳と年度別推計値 推計PDFのグラフ数値をテキストで抽出できず未確認。2035年度の収支不足591億円は新聞の見出しによる 札幌市 財政推計の原本、議会質疑
推計が枯渇後に充当する「減債基金」の範囲 普通会計は0.5億円。満期一括償還の積立金などを含むかは未確認 札幌市財政局、公債会計の決算書
札幌の外郭団体数・債務保証・損失補償 未確認 札幌市の外郭団体の経営評価資料
札幌の宿泊税・ふるさと納税の収支 未確認(北海道の宿泊税は2026年度に導入) 札幌市財政局・観光部局
札幌の国基準超過(独自上乗せ)の総額 未確認 札幌市各局の予算資料
札幌の敬老パス見直しの効果額 一般財源で約38億円という数字があるが、単位は未確認 札幌市保健福祉局
札幌の家庭ごみ有料化(2009年)の内容と効果 未確認 札幌市環境局
9市の有形固定資産減価償却率・生活保護率・自主財源比率 未取得 総務省 財政状況資料集、厚生労働省 被保護者調査
名古屋・川崎の公共事業削減が地元建設業に与えた定量的影響 一次資料・報道とも見つからず 業界団体の統計、地元紙
堺の職員4%削減の実績、京都の敬老乗車証見直しの効果額、大阪の敬老パス50円負担の開始月 未確認 各市の進捗報告
政令市の平均値(将来負担比率66.2%/88.2%/59.1%) 集計方法の違いで一致しない 総務省「主要財政指標一覧」(Excel)
決算カード表の※を付けたセル PDF抽出で列が崩れており、取り違えの可能性がある 決算カード原本を目視で確認

15結論

五市の前例が示す最も重要な事実は、財調がゼロになったことそのものより、「ゼロの後に何で穴を埋めたか」がその後10〜20年の財政を決めたということである。名古屋・川崎・京都は償還基金からの借入れで破綻を避けたが、その返済と再発に今も縛られている(名古屋は2026年度に453億円、川崎は残高497億円、京都は過去負債365億円)。

札幌が他都市と違うのは、人件費と借金に削る余地が乏しい一方、悪化の主因が三つに集中していることである。市の裁量で決まる建設事業、国の制度に連動する扶助費、気象に左右される除排雪である。したがって札幌の改革論争の焦点は「職員を何人減らすか」ではない。

建設事業の上限をどこに置くか、償還基金の流用を禁じて財調をどう積むか、独自の上乗せ施策をどれだけ残すか、の三つになるはずである。

札幌の見通しはこの2年、想定より実績が悪い方向に外れてきた(活用可能基金は2024年度末で70億円、2025年度末の見込みで183億円の下振れ)。悲観に外れた相模原・京都・堺とは逆向きである。推計が2027年度以降の物価・賃金上昇を織り込んでいないことも考えると、2031年度という時期は早まる余地がある。

ただし税収の上振れも織り込まれていないので、遅れる可能性も残る。市民向けに語るなら、「財調・まちづくり推進基金・土地開発基金を合わせた活用可能基金が2031年度に枯渇する見込みで、財調単体は2026年度末に119億円(市公表ベース)まで減る見込み」と、基金の範囲と数字の基準を添えるべきである。それが、改革の議論を数字の正確さで負けない土台にする最低条件になる。

調査・編集責任者

前原こうしょく

元ニセコ町議会議員。地方行政の公金と制度を、一次資料から追いかけて発信している。